大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「知的財産」に敏感になる

      2017/10/10

情報には一次情報と二次情報があるといわれています。

 

一次情報とは、自分の目や耳や足で直接手に入れたもの。

二次情報とは、誰かから聞いた、本や雑誌、
ネットなどのメディアで見たなど、間接的に手に入れたもの。

 

二次情報は、誰にでも手に入るもの。
二次情報の中には、世紀の大発見はありません。

どんな専門家も、持っている情報の8割はこの、二次情報でしょう。

本で学んだ、師から学んだ、
ネットを通じて論文や研究発表を読んだ、など。
すべて、専門家としての情報源には欠かせないものばかりですが、

どれだけたくさんの情報を持っていても、二次情報である限り、
言ってしまえば受け売り。

これは、ボイトレでも、楽器に関しても、音楽全般でも同じことで、
どれだけ知識が豊富でも、誰かの二次情報の寄せ集めである以上、
大々的な評価を受けることはありません。

 

価値ある情報と認めてもらえるのは、やはり一次情報。

自分自身が経験や実験などを通して発見したものや、

他の誰も気づかなかった着眼点、オリジナルのアイディアで、
新たに情報を切り取り、検証に成功したもの。

そして、全くの無の状態から、形あるものを作り出した、
オリジナルアイディアでしょう。

 

ところが、日本では、この一次情報、二次情報の境界が曖昧です。

知的財産権に厳しい欧米の書籍では、情報ソースや、着想を得た本を、
すべて明白に記述します。

日本では、すべて二次情報と思えるような本でも、
出典が一切書かれていないということも珍しくありません。

二次情報として手に入れたにも関わらず、
あたかも自分の一次情報であるかのように、扱う人もたくさんいます。
一方で、一次情報に対する保護もゆるい。

 

日本では、編曲、いわゆるアレンジには、
知的財産権がありません。

作曲家が曲デモで提出したアレンジを、
赤の他人が、完全コピーしても、
一切権利を主張できないというケースも多々あるようです。

そんな状態なので、一次情報や、
オリジナルアイディアの管理に非常に甘い人を頻繁に見かけて、
いつもヒヤヒヤしています。

 

カナダのエージェント宅で、作曲活動にいそしんでいたときのお話です。

10曲ほどのデモが完成し、
これからプロモーションに入ろうというときに、
エージェントのKayが私にこう言いました。

「MISUMI、このテープ(当時はカセット)のコピーをつくって、
自分宛に封書で郵送してちょうだい。」

理由を尋ねると、Kayはこう言いました。

「届いた封筒は絶対に開けないで保管してね。
誰かがMISUMIの楽曲を盗作したときに、
先にその楽曲を書いたのはMISUMIだということが、
封筒の消印で証明できるのよ。」

海のものとも、山のものともつかない、アマチュアの楽曲にも、
知的財産としての最大のプロテクションを施す。

欧米のエージェントらしいきっぱりとした態度に接し、
自分の甘さに気づかされました。

以来、私は、楽曲管理をお願いしていない自分のオリジナルは、
一切、ネットなどで流さないようになりました。

書籍などの付属CDなどで発表した曲などに関しても、
すべて、権利関係をクリアにしています。

オリジナル曲は知的財産です。
完璧な一次情報です。

守るべきものを守る。

一方で、二次情報など、シェアすべきものは、
ソースを明白にした上で、惜しげもなくシェアする。

そうした、センスを磨くことは、
知的財産で、世の中に貢献して行くため、必要不可欠だと信じています。

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