大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「自分の声の地図」を描く

      2015/09/28

「あなたの音域はどこから、どこまで?」

「え?」

「高い方はどこまで出るの?下は?」

プロのシンガーやアーティストでも、
この質問に即答できない人がたくさんいて、驚きます。

最大音域がわかっていない。
自分の声の美味しい音域がわかっていない。

つまり、自分の声の地図が描けていないから、
不用意にキーを決めてしまったり、
歌えないオリジナル曲をつくって、そのままレコーディングしてしまい、
ライブで苦労することになったりするのです。

 

たとえば、ギターは6本の弦で、
約3オクターブを演奏できるようにつくられています。

同じ音を演奏するにも、5弦で弾くか、6弦で弾くかで、
微妙にニュアンスが変わってきます。

開放弦を使うか、別の押さえて弾くかによっても、
音の響きや音色は違いますし、
カポタストをつければ、
同じコードを弾いてもサウンドはずいぶん変わります。

同じように、人間の声帯も、
独自のカポタスト機能や、ハーモニクス機能とも言える技を使って、
さまざまな表現をしてくれます。(詳しくは、いつかまた書きますね)

また、共鳴させるポイントによって、
あらゆる音色を出すことが可能です。

自分の声が、どのポイントに響かせると、どんな音になるのか。

最もよく響く音はどの音で、鳴りにくいのはどこなのか?
ヌケのいい高音はどの音か?

美味しい中音域はどこか?

そんな、「声の地図」を描けたらパフォーマンスの精度は
ぐっとあがるはずです。

少しわかりにくいかも知れないので、
私の声を例にとって、具体的に説明しましょう。

私の下の音域はいわゆる真ん中のド(C4)のオクターブ下(C3)。
がんばると、もう少し下まで出ることがあるが、不安定。

レコーディングやライブで使えるのは、下のC3まで。
ただし、Rockなどの音量の大きいライブで、曲調が激しいとき、
下はできるだけG3くらいにしておきたい。

非常によく鳴るのはA4。
ヌケ感があるのはB4なので、RockものはキーをGに設定することが多い。

スコーンと気持ちよく抜けるのはD5で、
高い声がたくさん出てくる曲は、ここをトップに持ってくることが多い。

強烈なインパクトのある声が出るのは、E5。
フェイクのトップはF5やG5を使うことも。

ナチュラルディストーションがかかりやすいのはC5より上。

地声もファルセットも最高音はC6。
(声の呼び名はいろいろありますが、
レコーディングの現場では、私の声はこのように呼ばれています。)

コーラスなどのレコーディングではB5くらいまで使うが、
A5以上の高い声は不要だし、
好きではないので、通常はほとんど使わない。

C#5はチェンジの音域なので、あまり好きではない。
(でも、よく使う。というか、よく出てくる。)

かつてはD4のピッチが不安定で苦手だった。

…etc. etc…

いかがですか?

マニアックですか?

 

こうした情報が、キーを決めたり、
曲を発注したりするとき、非常に役に立ちます。

もちろん、最終的には歌って決めるものですが、
単に「高い声が出るキー」なんて決め方をすると、
下が出なかったり、美味しい声が使えなかったり、
不安定な音がたくさん出てきてしまったりすることが多々あります。

自分の声の地図を描く。

本当に、本当に大切なことなので、是非是非、やってみてください。

22102673_s

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 声のはなし

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

スーパーファルセット(すんごい高い声)出したい?

スーパーファルセット、 ホイッスルヴォイスなどと聞いて、ピンとくるでしょうか? …

練習するのは、全てを忘れるため

「テクニックなんかどうでもいいんですよ、歌は。」 ピッチだ、リズムだ、表現力だと …

歌の上達に大切な3つの力

大好きな曲と出会う。 歌ってみたくて仕方がなくなる。 毎日聴く。何度も聴く。 そ …

自己表現のための”自分アバター化作戦”

かつて、ハワイ出身の日系アメリカ人女性シンガーに、 英詞の提供をしたことがありま …

「能書きが多いヤツ」は上達しない。

「歌って何才までうまくなるんですか?」 実によくされる質問ですが、 こればかりは …

クリスマスソング、何曲ちゃんと歌えますか?

Merry Christmas!   クリスマスのうきうき感は、 イル …

未来を切り開くのは、ひらめき、学び、そして自信。

ひらめきは突然やってきます。 「あ!今、これ、やっといた方がいいわ。」 「おぉお …

「違和感」を放置しない。

私たちの脳は毎秒1000万ビット以上の情報を処理できると、 神田昌典さんが書いて …

「聞き心地のいい声」で話して。

先日、とある人がYouTubeで話しているのを聞いて、 「この人、ホントはすっご …

大きい声を出すのをやめる~Singer’s Tips #5~

自分の声が届かない、通らないと思うと、 ついついがんばって、 「大きい声」を出そ …