大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「ギャラ、おいくらですか?」

      2015/09/06

「ちなみに、MISUMIさん、おいくらですか?」
プロとして仕事をするようになって、
もっとも嫌い&苦手だったのは、ギャラの話をすることでした。

「高すぎる」と言われれば傷つくし、
「安いんだな」と舐められたくもない。

「高いから、他をあたります」と言われたら、
もうちょっと安く言えばよかったかな?と思うし、

「なるほど。じゃ、お願いします」と即座に言われたら、
もっと交渉の余地があったのかな?と嫌な気持ちになる。

「お金は感情だ」と言った人がいたけれど、
ギャラ交渉くらい、手に汗握る緊張の場面はありませんでした。
事務所に所属している場合は、
事務所がギャラの交渉をしてくれます。
請求も、入金チェックも全部おまかせですし、
期日までに入ってこなくても、取り立ても、
立て替え払いもしてくれます。

こう書くと、「事務所に所属するって、なんてステキなんでしょう!」
と思うでしょうが、
もちろん、それなりにマイナス面もあります。

事務所はミュージシャンのギャランティから
パーセンテージで利益を得ます。(通常20~30%くらい)
当然、請求金額には、事務所の利益も乗せますから、
割高感があります。

さらにいえば、事務所はギャラ交渉も仕事のうちなので、
結構強気。
また、ミュージシャンたちのブランドを守るため、
クレジット標記などに関しても、厳しいことが多いため、
クライアントから敬遠されてしまうケースもあるようです。

インペグ屋さんを通して、お仕事をいただくときは、
少し事情が違います。

インペグ屋さんというのは、
ミュージシャンのブッキングを仕事にしている人たちで、
制作サイドとミュージシャンの橋渡し役。
ギャランティのパーセンテージで利益を得るのは事務所と同じだけど、
ミュージシャンのカタログをたくさん持っているので、
制作サイドの予算にあわせて、
ほどよいミュージシャンを紹介できるのが強みです。

インペグ屋さんは、
「この人のクラスはこのくらい」というギャラの基準を持っているので、
最初から、「この金額ではいかがでしょう?」と電話をくれるし、
「もうちょっと出ませんかね?」とお願いすれば、立場上、
「交渉してみましょう!」と軽く返答してくれます。

敏腕のインペグ屋さんの場合は、
ミュージシャンも、制作側もハッピーという金額を、
上手に回してくれます。
最近では、インペグ屋さんというのも、少なくなっているようですが、
最も仕事のしやすい人たちです。

さて、問題なのは、自分で交渉する場合。

前もって値段を聞いてくる時もドキドキしますが、
仕事が終わってから、「ギャラどうしましょう?」
という、ちょっと後出しジャンケンみたいな連絡がくるときも、
同じくらいドキドキです。

実は、制作費がどのくらいかかるか、
走り出してみないと確定できない音楽の現場では、
この「後出しジャンケン」も結構あるものです。

仕事の後に、
「ギャラどうしましょう?」」って言われると、
この人はどんな風に評価してるんだろう?とか、
いくらって言ったら、納得するんだろう、と深読みして、
なおさら、ドキドキしたりしたものです。

先方にしてみれば、
「安く言えば失礼だろうし、一円でも安く済ませたいし・・・」
というのが本音。

ここからが駆け引きというものなのでしょう。

 

さて、長年苦労した末に、
ギャラ交渉に関して、ガイドラインのようなものができましたので、
ご紹介してみたいと思います。
あくまでも、「私見」ですので、悪しからず。

 

1. 駆け出しの頃は、その旨をハッキリ伝え、先方の言い値で仕事をする。

「まだ仕事を始めたばかりで、よくわからないので、おまかせします。」
と伝えれば、先方は予算の中で、順当と思われるギャラを提示してくれます。
ここで突っ張る必要はありません。
仕事の精度さえよければ、
真摯な態度で臨むことで好感度もあがりますから、
次の仕事につながっていくでしょう。

 

2. 少しずつ、ギャラが上がってきたら、上限の金額を提示する。

これはチャレンジですし、しんどいところですが、
自分のクオリティを上げていくためにも、
ブランドを作って行くためにも、
「いくらでもいい」という看板に別れを告げる必要があります。

一度、ある程度の金額をもらえたら、先方にギャラを聞かれたときに、
「一応・・・」と、その金額を提示する。
その時の相手の反応で、落としどころを決めていく。
そこからだんだんと自分のスタンダードが決まっていきます。

 

3. スタンダード価格を決め、それを提示する。

自分自身のスタンダード価格は、
「この金額をもらえたら、納得できる」という価格。

スタンダード価格を提示するということは、
自信を持って、価格に見合った精度の仕事をします、
という約束でもあります。

この段階に来たら、
「この人となら、値段が多少安くても喜んでやらせていただく」
というお仕事以外は、お断りすることもあり得るでしょう。

それは、適正な価格でお仕事を頼んでくれるクライアントたちさんに対する、
リスペクトでもあるからです。
いかがでしたか?

お金の話はデリケートであり、とてもプライベートな問題でもあります。

しかし、最終的には、ギャラの金額は、自己評価で決めるものです。
自分自身のクオリティに適正な価格を決めるのも、また、自分自身。

胸を張って、自分が妥当だと思える金額を提示できるような、
自信を育てていきたいものです!

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 - 音楽業界・お金の話

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