大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

お金、時間、労力、そして愛情をかける

      2015/05/25

楽器の人たちが機材をそろえるのに使っているお金、時間、労力は、
並大抵ではありません。

音にも弾き心地にもこだわらない、
自分の楽器は持たない、
自分は生ピアノやアコースティックギター以外弾かない
・・・などなどという希なプレイヤーは別として、

そこそこの楽器を持ちたいと思ったら、数十万円は覚悟しなくてはなりませんし、
さらに、ビンテージだの、限定だの、オリジナルだのと、こだわったものをと思えば、
何年ものローンを抱えなくてはいけないことさえあります。

プロのプレイヤーともなれば、いずれは複数の楽器が必要になります。
トラブルが起きたときのセーフティ。
持ち替え用のサブ。
キーボードなら、シンセにオルガンにピアノ・・・などなどと種類もたくさん。

現場のTPOや、その時の気分によって楽器を替えたり、
同時に複数の楽器を鳴らさなくてはいけなかったり、
複数のツアー先に、同時に運搬してもらわなくてはならなかったり、

まぁ、「好きだから」という理由が50%以上でしょうが、
それでも、ミュージシャンなら誰もが、
一生涯に、実にたくさんの楽器を所有することになります。

電気楽器の場合、もちろん、楽器だけでは済みません。

たとえばギターを例に取ってみれば、
アンプ、エフェクターなどの電気回り、
ケーブル、ストラップ、カポタスト、チューナーなどの小物類、
弦、ピックなどの消耗品・・・などなど、

必要なものの数も種類も無数にあります。

 

楽器が増えれば、運搬用の車も大きくしなくてはなりませんし、
日頃収納するためのスペースも必要です。

ドラムセットなどの大きな楽器や、アンプなどを複数所有する場合は、
倉庫などを借りなくてはならない場合さえあります。

現場に運搬するときも、一人では追いつかず、
個人的に、スタッフを頼んで、
運搬からセッティングまで手伝ってもらったりする必要が出てきます。

その大変さは、こうして書いているだけで、気が遠くなるほどです。

機材は、ツアーなどのメジャーなお仕事をするほどふくれあがるわけで、
ある程度、まとまったギャラをもらっても、
バランスで考えれば、けしてもらいすぎとは言えないでしょう。

 

一方で、ボーカリストの楽器はカラダひとつ。

最近ではマイクを持って歩いているアマチュアもいるようですが、
実際のプロの現場では、それらはPAさんや、エンジニアさんの担当。

文字通り、手ぶらで現場に行けばよいわけで、

機材費、維持費、保管費、運搬費、修理費・・・などなど、
一切かからない、元手いらずのパートです。
 

だからこそ、そんなこだわりのミュージシャンたちと同じステージに昇るためには、
ボーカリストはお金と労力と時間をかけて、
自分という人間を磨き上げなくてはならない。

プレイヤーが楽器を愛するように、
自分自身を最大限に愛し、そのポテンシャルを最大限に引き出し、
最高に自信を持って、人前に立たなくてはいけない。

 

いい音楽をたくさん聴く、いっぱいコピーする、ボイトレする、
作詞、作曲をする、楽器を学ぶなど、
音楽家としてごく当たり前のことから、

トレーニング、食生活のコントロール、ダイエット、
エクササイズ、ダンスレッスン、衣装やヘアメイクの研究など、
自分の見せ方を磨くこと、

語学を学ぶ、本をたくさん読む、美しいものをたくさん見る、
さまざまな人と出会う、などの自分の内面を磨くこと・・・etc.

できること、やるべきことはたくさんあります。
 

楽器の人が楽器にかけただけの愛情を、
自分自身にかけたと、言い切れるかどうか。

そんな思いや、行動が、確実に自分の歌を次のステージに押し上げてくれるのです。

23961167_s

 - The プロフェッショナル

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

タフであること。 楽天的であること。 そして適度に鈍感であること。

少し前のこと。 とあるアーティストの子が、こんなことを言っていました。 「悪口を …

「YES感」は、探して見つかるものでも、 つくり出すものでも、追いかけるものでもなく・・・

「なんか、ぱっとしない。」 「どこが悪いってわけじゃないんだけど、なんだかなぁ・ …

歌の魅力。〜SInger’s Tips#7〜

「今の声の初々しい魅力はそのままに、 もっと声が抜けるように、パワーをつけてくだ …

確信だけが、人の心を動かす。

「MISUMIさん、バッチっす!OKです!」 レコーディングのお仕事では、 歌っ …

無限の可能性の中から選び取る、 たった一つの音。

レコーディングなどで自分の声と向き合うと、 声というものの表現の無限の可能性に、 …

頂点のその上って、どこなんだろう?

「ちょっと成功すると、みんな、そこで満足してしまう。 それで、ちょっとずつ失速し …

「カッコいいやつ」が「カッコいいやつ」と呼ばれる5つの理由

「なんにもしなくてもカッコいいやつっているんだよ。 こればっかりは、どうしようも …

「立ち上がり」が悪いから歌がシャキッとしないのだ

音の「立ち上がり」の大切さに気づいていないばかりに、 イマイチ、歌がシャキッとし …

ハスキーボイスには2通りある

ハスキーボイスといわれるシンガーは、その発声の特徴によって、 実は2通りに分かれ …

価値は受け手が決める 受け手は送り手が選ぶ

他に認めてもらうことで、はじめてその価値が生まれるというものがあります。 誰かの …