大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「そんなこと、基本の「き」だろう!!?」

   

某ビール会社のCM制作のお仕事で、
ある著名なボーカリストが歌うイメージソングに、
英詞を提供させてもらった時のお話です。

曲を受け取ってから、締め切りまで、確か丸1日ほど。
商品が商品だけに、クライアントの要求も大変高く、
それはそれはテンパりながらのお仕事。

それでも、気持ちよくOKをいただいて、
少しいい気になっていたようなところがあったかもしれません。

OKをいただいた翌日くらいだったと思います。
そのベテランボーカリストの発音チェックなどのため、
レコーディングに立ち会うことになりました。
スタジオに入ると、ロビーには、
鬼より恐い(と当時思っていた)プロデューサーさんが待っていました。

 

「お疲れさま。
なかなか、いい歌詞書いてくれたね。クライアントも喜んでいたよ」

思いがけないお褒めのことばに、気持ちがゆるんだ次の瞬間です。

「ちょっと歌詞見せて」とプロデューサーさん。
どきりとしました。

当時、作詞の仕事はすべてFAXでやり取りをしていました。

すでに先方に送って、OKもいただいていた歌詞。
当然、スタジオに入るスタッフさんは、用意してきているはずと、
髙をくくっていたようなところがあります。
大きな仕事をやり遂げたと言う気の緩みもあったかもしれません。

私は、歌詞をプリントアウトしたものを用意することなく、
手ぶらでスタジオに行ってしまったのです。

「すみません。持ってきませんでした・・・・」

 

そう言った私に、プロデューサーの雷が落ちました。

 

「なにをやっているんだ!?そんなこと、基本の「き」だろうっっっ!!!」

 

 

レコーディングや作詞でたくさんのお仕事をさせていただきながら、
マネージメントもついて、デビュー準備をしていた頃のことです。

あちこちで持ち上げられ、ちょっと天狗だったあの頃。
あのことばは本当に染みました。

 

仕事をなめるな。

常に完璧な準備を怠るな。

いい気になるのは、やることをやってからにしろ。

油断をするな。

完パケのその瞬間まで、仕事は終わっていないんだ。

 

 

そんな、たくさんのことを、あの一言で学びました。

今でも、あの時の情けない気持ち、恥ずかしい気持ちは忘れません。

本当にありがたいおことばだったと思っています。
どんな業界でも、ベテランと呼ばれるようになると、
叱ってくれる人はいなくなります。

誰も何も言ってくれない。

自分がいないところで、
「惜しい」と言われ、残念がられ、呆れられ、あきらめられ、
やがて、少しずつ、決定的に、
一緒に仕事をしようと思う人がいなくなっていくのです。
あれから長い年月が経ちました。

あの時のプロデューサーの年齢はとっくのとうに追い越しました。
今でも、叱ってくれる人や意見してくれる人を
ありがたく、大切に思う気持ちは変わりません。
同時に、自分も、そうして人をきちんと叱れる人間でありたい。
必要なときに、必要なことばを、
躊躇したり、遠慮しなりすることなく、しっかりと口に出せる人間でありたい。
ときに、本当に難しいことではあるけれど、
そして、ときに、結構「言い過ぎたかな?」と後悔もするけれど、

 

その勇気をなくさないことが、
叱ってくれた先輩たちに対しての、
これから成長する後輩たちに対しての、
感謝であり、誠意であり、愛情であると、信じて疑わないのです。

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 - The プロフェッショナル

Comment

  1. TAKA より:

    いいお話ですね。

    どんなに信念や愛情を持って叱っても、残念ながら、受け止める能力の無い人がいます。

    そんなときは「自分の言い方が悪かったのか?」とか「言い過ぎたか?」とかグラつくこともあると思いますけど、そうじゃないと思います。
    「嫌われてもやむなし」と腹を決めて叱るということは、本当に価値があると思いますね。

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