大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

音楽業界のお金の話

      2021/05/18

「でさぁ、その歌手にくっついて旅して、バックコーラスやらせてもらうのに、
いくらくらい払うの?」

 

まだ駆け出しで、仕事がない頃。
長期のつもりではじめたアルバイトでしたが、
突然、某人気歌手の長いツアーのお話をいただき、
バイトをやめなくてはいけなくなりました。

店長にそれまで隠していた自分の本業(とは言えなかったのですが)を打ち明け、
事情を説明して仕事場に戻ったとき、
近くで話を聞いていたにちがいない30前後の男性社員に、
冒頭のことばを言われたのでした。

特に意地悪で言った感じでもなく、
ほんのカジュアルに口をついて出たことばに、
「あぁ、世の中の人って、音楽業界のこと、なんにもわかってないんだなぁ」
と、ため息をついたものです。
若かりし頃ばかりではありません。

 

業界でさんざんキャリアを積んで、バリバリお仕事をしていた時代でさえ、

親戚の集う席では、叔父に、作曲家である主人と私を二人並べて、
自分の商店でバイトしながら俳優を目指しているという
フリーターと同じ扱いを受け、

近所のお寿司屋さんでは、知り合いのおじさまに、
「お母さんもいろいろ生活の面倒をみなくちゃいけなくて、大変でしょう」
と、なぜか母までが同情され。。。

 

ミュージシャンって、そんなに、お金に無頓着、
または、稼げてないイメージなのでしょうか・・・・?

 

一方で、正反対の誤解もあります。

・テレビに出ている人は、ものすごく稼いでいる。

・事務所に所属すればちゃんとお給料がもらえて安泰。

・デビューがゴール。

・曲が売れたことのある人は一生、夢の印税生活。

 

さてさて、真相はいかに・・・???
今日は思い切って、音楽業界のお金の話、あれこれを書いてみようと思います。

ただし、音楽業界には、定価はあってなきがごとし。
すべてが「言い値」のようなところがありますし、
お仕事の規模やグレードによっても全然違います。

時代によって大きく変動もしますから、
あくまでも、私の知る範囲では、ということでご理解ください。

 

まずは冒頭の、ツアーのサポートミュージシャンの場合。

若くて、駆け出しの頃は、1ステージ2並び、
つまり源泉税込みで¥22,222でスタートしたと記憶しています。
(ちなみに、当時の源泉税は10%。現在では10.21%)

東京タワーでおみやげ物を売るバイトの時給が650円でしたから、
3時間弱のステージに立つだけで、
丸4日分のバイト代と同等の金額がもらえたことになります。
ちなみに、バブル期ということもあり、
このギャラは、お仕事のキャリアを積むたびに順調に上がり、
サポートキャリアの短い私も、
一時は5~6並びくらいまでいただいていたと記憶しています。

 

サポートの場合、プレイヤーは、コーラスよりも優遇されていて、
当時は7〜8並び、中には10を並びでもらっている人もいました。

リハーサルは、本番の半分の金額が相場。

たとえば1ツアーが30本、リハが10日間あったとして、
1本5並びのミュージシャンなら、税抜きでも175万円。
3〜4ヶ月の稼ぎとしては、そんなに悪くはありませんね。
もちろん、現場はケースバイケースです。

1ツアー、まるっといくら、という場合も、
1日2回ステージの場合でも、ギャラが同じという場合もあったようです。
高校時代の友人の中には、
「へぇ〜、24時間拘束されてるのに、そんだけしかもらえないの?」
と嘲笑する子もいましたから、物は考え方ですね。

 

さて、先ほどの都市伝説的な、噂の答えとしては、

・テレビに出ている人は、ものすごく稼いでいる。

→アーティストにとっては、テレビがプロモーションという場合が多く、
ギャラはゼロ。入っても、事務所に入るので本人は関係ない。
→サポートミュージシャンは一律、一本いくらでギャラが決まっている。
たいがいは1ステージよりは安い。某N○○局の場合はさらに、お安い。

 

・事務所に所属すればちゃんとお給料がもらえて安泰。

→アーティストとして事務所に所属しても、ギリギリ生活できるくらいの
お給料でやりくりしているアーティストは多数います。
お給料がどんなに安くても、バイト禁止の事務所もあり、
バイトOKでも、事務所から呼ばれたら、どんなときでも行かなければいけないので、
かなり生活が厳しい人たちも多いようです。

→ミュージシャンは、事務所に入っても完全出来高制の場合がほとんど。
マネージメントの窓口になってもらう分、20%〜30%の手数料をお支払いします。
所属しても、お仕事がもらえるとは限らない一方、
自分の評判から舞い込んだお仕事でも、
手数料を支払わなければならない場合も多々あります。

 

・デビューがゴール。

→デビューしても売れなければ、お給料は上がらず、印税は入らず。
それでもある程度事務所にお金をかけてもらえるうちは、
好きな音楽をたくさんの人と関わりあいながら創れる喜びはありますが、
それでも売れないと、予算はどんどん縮小。
最終的に契約終了で、フリーターに逆戻りというパターンも。

 

・曲が売れたことのある人は一生、夢の印税生活。

→1000円のシングル盤が1枚売れても、
作曲または作詞のいずれしか担当していなければ、印税は15円程度。
(こちらもケースバイケースなので、あくまでも参考に)
100万枚売れたら、1曲につき1500万円ほどになりますが、
今の時代に100万枚売るのなんて、夢のまた夢。
しかも、万一売れたとしても、1曲だけでは、
あっという間に印税生活は終わってしまいます。
印税生活は、相当売れないと無理そうです。

 

いやはやぶっちゃけ、けして楽な仕事ではないんですよ〜。

 

ここには登場しなかった、スタジオのお仕事や、
ライブのお仕事のお話は、また別の機会に!

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 - 音楽業界・お金の話

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