大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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自分のギャラの基準 <前編>

      2015/09/06

さて、『「ギャラ、おいくらですか?」』、『音楽業界のお金の話』に続く、
お金シリーズ。

今日も、私の経験に基づいて、思い切った持論を、
前後編に分けて展開したいと思います。

 

駆け出しの頃、まだ仕事のことをろくにわかってもいないうちは、
ギャラなど1円ももらえなくても、チャンスがあったらできるだけ現場に行って、
プロフェッショナルと一緒にお仕事をさせてもらうのが正解です。

現場は、学校やアマチュアの仲間内では絶対に学べない、
まさに、生きたノウハウの宝庫です。

厳しいこともたくさんありますし、叱られたりもします。
しかし、経験という財産はお金で買いたくても買えないものです。
気合い次第では、大先輩たちの仕事ぶりを盗み放題。
こんなにありがたい場所はありません。
 

仮歌でも、ローディーでも、仮歌詞でも、コーラスでも、
頼まれたら、喜んで引き受けて、一所懸命やらせてもらう。
そこでの仕事ぶりが評判を呼んで、お仕事に繋がることも珍しくありません。

 
こうした場合、頼む側の考え方次第ですが、
お金の話は一切出ない場合、
食事をご馳走してもらえる場合、
交通費程度を渡してもらえる場合、
バイト代程度をもらえる場合・・・といろいろです。

いずれにしても、慣れるまでは、
喜んで、精一杯やらせてもらうことです。
くださるというものを断ることはありませんが、
「ギャラ、どうしたらいい?」のように言われたら、
「勉強させていただくのに、とんでもないです」と潔く言うことです。

 

 

ここで難しいのは、「いつまでタダで働くべきか?」ということでしょう。
お世話になった人であれば多少仕事をするようになっても、
しばらくの間は恩返しのつもりでお手伝いさせていただくくらいの心意気は大切です。

「この人のお仕事は、一生ギャラなんかいただけない」
と思えるくらいの恩人もいるでしょう。

しかし、「なぜいつまでもこんな扱い?」と納得できないケースは、
ギャラの件に限らず、だんだん出てきます。

「納得できない」
「こんなこと、もう無理だ」
そう思った時が、タダの仕事をお断りするタイミングです。

 

こんなことがありました。
プロになって、2〜3年目、
少しずつお仕事がいただけるようになってきた頃のこと。

まだ音楽学校にいた頃に、
バンド仲間の紹介でちょっとだけコーラスをお手伝いしたある方から、
「あるシンガーのプロデュースをすることになったので、
コーラスをやってくれないか」とご連絡をいただきました。

一応、どこかのレコード会社から発売予定の作品ということで、
「長いこと連絡もなかった方から、思い出してお仕事をいただけた!」
と喜んで出かけました。

 

しかし、プライベートスタジオという現場に行ってみれば、そこは酒瓶だらけ。
タバコとお酒の匂いが充満したスタジオで
3曲ほど目いっぱいコーラスをしたあげく、言われたことばは、
「さんきゅーな。ま、好きなだけ飲んで行ってよ」
 

その時の自分の気分がバロメーターになりました。
もう、こういう「お仕事」はしてはいけないフェーズに入ったのだと悟ったのです。
 
後日、同じ方から、「もう1曲歌ってくれない?」とお声がかかったとき、
勇気を出して「お仕事として、やらせていただいているので」とお断りしました。

その時にその人に言われたのがどんなことばだったか、最早覚えていませんが、
実に不愉快な感覚が戻ってくるので、なにか酷いことを言われたのでしょう。
しかし、それでよかったのです。
 

もう一度行けば、いい仕事はできません。
「舐められてる」とムカムカしながら、ろくでもない歌を歌うくらいなら、
何を言われようと、勇気を出して撤退すべきなのです。

 

この話の教訓は、頼む側にも生きています。

「若手」はいつまでも「若手」ではなく、
「駆け出し」はいつまでも「駆け出し」ではありません。

「恩」というのは受けた側が感じること。

成長していく「若手」を応援する気持ちがあるのなら、
その時々の彼らのようすに敬意を払い、
何かを頼む前に状況を聞くのもマナーでしょう。
心しておきたいことです。

長くなったので続きは明日。
ギャラに関する価値判断の基準と、対応の具体的なMyルールのお話をしますね。

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 - 音楽業界・お金の話

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