大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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レッスンの価値は受け手の情熱が決める

      2016/10/27

トレーナーひとりでどんなにがんばっても、
レッスンを受ける側の情熱やモチベーションはコントロールできません。

もちろん、学校のようなところで教える場合、
モチベーションの低い子たちを
どうやって本気にさせるかも課題のひとつとなることはあるでしょう。

でも、プライベートレッスンで、
そんな初歩的な問題で悩むのはお互いの時間の無駄だと思っています。

真剣な人にだけ真剣に教えたい。
それが、プライベートレッスンをはじめた当初、
クライアントをプロアーティストと
アーティストの卵に限定した理由のひとつでした。

多くの人の期待を背負うことになるプロや、その予備軍なら、
歌に対する真剣さは誰にも負けないはず。。。

そんな私の想像は、しかし、やがて裏切られることになります。

もちろん、すでにバリバリ、一線で活躍している、
プロフェッショナルな人たちは別格でした。
自ら不調に気づき、トレーナーを探し、
スケジュールの合間にレッスンに通う。
一流のアーティストの一流のアチチュード。
そんな彼らのマインドに学んだ事はたくさんあります。

一方、音楽事務所やレコード会社の方たちに、
「連れてこられる」アーティストの卵たちの、
レッスンに対する態度は、完全に2つのタイプに分かれます。

歌が大好きで、絶対にプロになりたくて、
レッスンでも、小さいライブでも、どんどん結果を出して、
事務所の人にも、レコード会社にも認められたい!!!
という、猛烈かつ、貪欲なモチベーションを持って、レッスンに臨むタイプ。

そして、
歌は好きだけど・・・プロになりたいけど・・・
練習しなくちゃいけないのも、わかってるけど・・・
私だってがんばってるし・・・曲書けって言われてて忙しいし・・・
それより痩せなくちゃいけなくて・・・
と、自分にも、私にも、事務所の人にも、
常に、結果を出せない言い訳を準備しているタイプ。

まぁ、私もロックな女なもので、あまりに目に余ると、
ドカンとキレたりするのですが・・・
(クライアントさんの中には
「ちょっとこの子にMISUMI先生のロック魂を注入していただきたくて」
と生徒さんを連れてくる方も・・・
怖くないですよ〜。私。普段は全然。たぶん。。。)

私に叱り飛ばされて、脅されて、いきなり目が覚める子もいます。
でも、どんどん言い訳が周到になって、
やがてレッスンに来なくなる子もいます。
こればかりは、もうどうにもならないことです。

ボイトレに限りませんが、「やらされている」という意識がなくならなければ、
たとえ一時ちょっといい思いができても、
長い目で見たら、絶対に残っていけるアーティストにはなれないんです。

プロになれる人には、
それだけ周囲を動かす情熱や能力があります。
本気な人にこそ、エネルギーを注ぎたいと思うのは、人間の常。

レッスンの価値は受け手の情熱が決めます。

教える側も人間なので、情熱には情熱で応える。そこで生徒に負けてなるものかと、真剣勝負に出ます。

結果が出せなくて、悔しくて、自分の無力さがふがいなくて、
泣くことだってあります。
でも、だからこそ、次回のレッスンまでに絶対に、
もっと結果が出せるレッスン方法を考え出そうと研究に研究を重ねます。

最近、ボーカリストを目指すアマチュアにも、門戸を開いたのは、
実は、プロに負けないほどの情熱で私をその気にさせてくれた、
素晴らしい生徒さんたちとの出会いがあったからです。

SNSで私を見つけた。ブログを読んでファンになった。
そうして、セミナーに来て、懇親会に出て・・・
やがて、意を決して「プライベートレッスンを受けさせてください!」
と連絡してきてくれた子がいます。

知り合いのつてをたどって、たどって、
やっとの思いで、私の直接の知り合いにたどり着いたという子もいました。

連絡先はゲットしたものの、
私がアマチュアには教えていないと知って、直接、
「どうしても先生に教えていただきたいんです!」と電話をかけてきた、
18才の女の子もいました。
もちろん、そこまでされて、レッスンをお断りする理由はありませんね。

そんな子たちは、事務所の人たちに連れてこられる子たちの何倍も真剣に、
一所懸命にレッスンを受け、レッスンを録音し、
次のレッスンまでに課題を必死でクリアしてきます。

レッスンのためだけに、地方から新幹線や夜行バスでやってくる子もいます。

バイトをして、貯金して、安くはないうちのレッスン料や、
遠方からの交通費を、一所懸命工面している。
お財布から、くしゃくしゃになったお札を
大事そうに皺を伸ばしながら出してくれる子もいます。

「あぁ、この子たちのがんばりに、あたしも全力で応えなくちゃなぁ」と、
心から思うのです。
絶対に結果を出さなくちゃ。真剣勝負です。

本気な人としかつきあえない。つきあいたくない。

本当のプロって、そういうものだと思うのです。

 

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