大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ショービジネスの世界で生きるということ

   

昨夜はレッスンを受け持っているアーティストのライブに行ってきました。

初めての大箱でのライブということで、
もう何ヶ月も前からこの日のために準備を重ねてきた彼ら。

スポットライトが当たる瞬間までの、
彼らの何千時間もの時間を思って、
イントロがはじまった瞬間に感極まってしまいました。。。

高校時代、進学もそっちのけで、バンドの練習に明け暮れていた頃のことです。
付属の短大に持ち上がりで進学も決め、
毎日を楽しそうに過ごしていた友人に言われたことがあります。

「MISUMIたちって、何のためにそんなに一所懸命練習してるの?」

「とりあえずは文化祭だよね。やっぱり、ちょっとでもうまくなりたいから」

「文化祭って、演奏できるの、せいぜい40分くらいでしょ?
それっぽっちの時間のために、毎日そんなにあくせく練習するなんて、
考えられな〜〜い。」

なんだか、ガツンと胸に響きました。

友人が何の気なしに口にしたことばは、
長い長い時間が経った今も、ことあるごとに蘇ってきます。

昨夜、彼らのライブを見ながら、また、そのことばを思い出していました。

2時間半のスポットライトを浴びるための、何千時間もの苦闘。

ショービジネスって、結局、そういう仕事なんだよなぁと。

それは、どんなに成功したアーティストも変わりません。
ただ、スポットライトを浴びている時間が、ちょっと長くなるだけです。

好きだから。心の底から好きだから。
そんな思いではじめたこと、やめられないことが、
何よりも自分を苦しめる。

こんなことしてて、何になるんだろう?
所詮、才能もないのに、ただ、しがみつきたいだけじゃないのか?
何年がんばっても、結局モノにならなくて、
最後は挫折するだけなんじゃないのか?

そんな、自分との葛藤に打ち勝ったものだけが、
あの光の中に立ち続けることができるのです。

ライブが終わった後の、達成感に満ちあふれた笑顔。
私の顔を見るなり、緊張がほどけて泣き出した顔。

そんな彼らの顔を見ながら、
トレーナーとしての幸せを噛みしめるとともに、
これからまた、彼らが過ごすであろう、何千時間を思いました。

浴びる光が明るいほど、影もまた色濃くなるもの。

必要とされる限り、彼らの影を支えていきたいと思った夜でした。

 - 未分類

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

音楽という「箱」から取り出すもの

ずいぶん昔のことになります。 その奔放かつ、悪魔的とも表されたプレイスタイルに魅 …

no image
「点ではなく面で考える」

最近、心密かに想いを寄せている佐藤オオキさん。 昨年、オオキさんが出演していた …

no image
自分の耳は自分で磨く

歌えないから聞こえないのか? 聞こえないから歌えないのか? ニワトリと卵のような …

no image
先人たちの名演に学ぶ

ボーカリストにとって、いや、ミュージシャンにとって、 最高の教材は先人たちの残し …

no image
平均的な舌って、なに?

誰しも、生まれながらの自分のカラダが、 自分にとってのスタンダード=標準規格です …

いわゆる「男性のモテ声」の特徴

「婚活に役立つ声の出し方を教えてください!」 そんな声をいただきました。 ご相談 …

プロフェッショナルの徹底ピアノ調整!

10月末から1週間ほど休業&家を留守にするということで、 思い切って、ピアノの一 …

no image
「やる気」を引き出す3つの方法

まれに、「やる気のない生徒にボイトレをする」という、 謎の事態に遭遇することがあ …

no image
「お前よぉ、いい気になれよ」

かつてツアーのお仕事をした男性タレントのアンディーさん(仮名)が、 打ち上げの席 …

no image
限りなく「百発百中」を目差す

プロとアマチュアの圧倒的な違いは、 そのパフォーマンスに対する信頼度です。 人間 …