大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ヴォーカリストこそ、もっと、ちゃんと「聴く」!

   

バンドのパートの中で、一番コピーしやすくて、
誰でも、そこそこやれるパートってなんでしょう?

 

はい。
もちろんヴォーカルです。

 

歌は、何回か聴いていれば、誰だって、
そこそこ口ずさめるようになります。

よほど、キーがあっていないとか、
とんでもなくテンポが速いとか、
はたまたちんぷんかんぷんな言語で歌われているのでもない限り、

歌は、誰でも、そこそこ歌えるようになるものです。

 

さて、ここからが問題です。

 

「最も上達しづらいパートはなにか?」と聞かれたら、
私は迷いなく「ヴォーカル」と答えます。

 

理由はいろいろありますが、

最大の原因は、ヴォーカリストこそ、
「ちゃんとやれているつもり」に最も陥りやすいパートだからです。

 

 

 

何回も、何十回も、何百回も聴いている曲。
完全に耳タコですから、誰だって、「この曲なら歌える」と思う。

音源を流しながら、本人と一緒に気持ちよく歌う。
メロも、フェイクも完璧。
なんなら歌詞も暗記している。。。

 

ところが、このレベルの歌を聴かせてもらって、
わかっているな、ちゃんと歌えているな、と思うことは、
そうですね・・・・10回に1回、あるかないかです。

 

つまり、ほとんどが、「ちゃんとやれているつもり」。

カラオケで、お金を払って、いい気分で歌うのなら、
もちろんそれでOKですが、
ハッキリ言って、そのままでは一生上達しません。

 

 

楽器の人は、ある程度の演奏をするには、
音源をそこそこ耳コピしなくちゃいけない。

たとえ楽譜があっても、
タイミングや、ニュアンスや、ヴォイシングや・・・

技術がある人ほど詳細に、
ない人でも、それなりに、
コピーしないと演奏になりません。

(時々、学生などで、演奏になっていないのに
知らん顔してやっているプレイヤーを見かけてびっくりしますが)
楽器の演奏をするには、それなりに努力がいるのです。

 

プレイヤーは、楽器をはじめてからこれまで、必ず、
ある程度の時間を楽器の練習に費やしてきたはずです。

 

一方でヴォーカリストは、どうでしょう?

 

「こどもの頃から歌が好きで、いっつも歌ってましたから」と、
自慢そうに言う子がいますが・・・

 

う〜ん。それってただのカラオケ好きな人と、
なにか違いますか?

 

はい。もちろん、いつものように、
これだけで、ものすごい歌手になってしまう、
一部の天才のことは忘れてくださいね。

 

このブログの読者のみなさんは、私と同じ。
下克上を夢見る同志と思っていますから(^^)

 

ごく普通の人が、
カラオケ好きな人と同じレベルのことしかしていなかったら、
頭ひとつ抜けることは非常に難しいでしょう。

 

 

では、どうしたらいいか?

 

まずは、もっとちゃんと「聴く」。

これに尽きます。

 

ポイントは「一緒に歌わないこと」。

 

細部に至るまで、徹底的に「聴く」。

 

音の変わり目はどうか?

ことばのニュアンスはどうか?

歌い出しのアタック感はどうか?

語尾はどうか?

リズムの乗り方はどうか?

フレージングのポイントはどこか?

ブレスの位置はどこか?

音色の変化はどうか?

音の強弱はどうか?

ビブラートのかけ方はどうか?

音の長さはどうか?

・・・etc.etc….

 

1曲、ワンコーラス、ワンフレーズの中の情報量は、
信じられないくらいたくさんあります。

 

その情報を拾う前に、気持ちよく歌い出さない。

まずは、じっくり聴く。

何度も聴く。

情報を拾う。

 

それから、「声を出さずに」、一緒に歌ってみてください。

まだまだ拾えていない情報に気づけるようになるはずです。
声を出して一緒に歌うのは、その後なんです。

 

歌でも、プレイでも、名演といわれる演奏には、
ぎっちり、情報が詰まっている。
そんな視点で聴き始めれば、
ますますたくさんの情報がアンテナに引っかかってくるはずですよ。

11633947 - young man wearing headphones

 

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, デモをつくろう!

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

オーディションは「試験」でも「試合」でもない!

いわゆる「オーディション」というものを受けたのは、人生で2回だけ。 どちらももの …

練習するのは、全てを忘れるため

「テクニックなんかどうでもいいんですよ、歌は。」 ピッチだ、リズムだ、表現力だと …

“なんちゃってコピー”は、いい加減卒業する。

賛否両論あると知りながら、 ここでたびたび完コピについて取り上げるのは、 今も昔 …

聞いてるつもり。できてるつもり。がんばってるつもり。

「え?ホントにそんな風に聞こえるの? なんでそんな風に聞こえるかなぁ・・・・」 …

「左脳で感じる」練習法

「おとなは左脳で感じる」。 私の持論です。 ある程度成長すると、 こどものように …

ヴォーカリストのための「練習の3つのコツ」

プライベートレッスンでも、MTL12でも、そして音大でも、 クライアントやアーテ …

「この歌、いいなぁ」には必ず理由がある!

「売れる曲には、必ず理由がある」 あるヒットメーカーが教えてくれたことばです。 …

「曖昧なこと」「わからないこと」を放置しない

歌や楽器の上達のために必要不可欠なことは、 「曖昧なこと、わからないことを排除し …

1つの曲に含まれる驚くべき情報量

「普段、どんな音楽を聴いているんですか? やっぱり、レコードとか、CDとか、たく …

ルーティンワークで「微差」をつかまえる。

鰻屋を営んでいた母方の祖父は、 生前、お昼ごはんに、 毎日お店の鰻重を食べていた …