大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

孤独を怖れず、自分自身と向き合う。

   

あっという間に4月。
音大の新学期が始まりました。

キラキラと目を輝かせている新入生や
「今年こそ、がんばろう」という在校生たちの笑顔もまぶしい今日この頃です。

大学生になると、なんでもかんでも与えてもらっていた高校時代とは、
すべてが一転します。

やらなくてはいけないこと、やってはいけないこと、
・・・そんな線引きが曖昧になります。

学校に来たくなければ、来なくてよろしい。
勉強したくなければ、しなくてよろしい。
留年したいなら、すればよろしい。

もちろん大学によって考え方はいろいろあるでしょうが、
ほとんどが生徒の自主性にまかされています。

ところが、この「自主性」が、
至れり尽くせりの日本の高校を真面目に卒業した若者たちには、
苦痛になってしまうようなのです。

決められた時間に学校に行って、
決められた時間、机に座って、黙って授業を聴いて、
もしくは聴いてるふりをして、
テスト前にちょこちょこっと勉強して、
そこそこの成績取って、
体育も、学祭も、受験もそこそこがんばって、
そこそこの性格で、そこそこの進学、もしくは就職をする。

これが典型的な「いい生徒」なわけですね。

「いい社会人」の基礎ともいえるかもしれません。

だから、いきなり大学生になって、
時間割も、毎日のスケジュールも、服装も、生活習慣も、
なにもかも自分で決めなさい、と言われると、もうどうしていいかわからない。

ただでさえ、世界レベルで見ても過保護で、親離れ、子離れのできない日本人。
規律も、命令も、禁止もないと、どうしていいかわからない。
やがて、自由から逃げたくなります。

『自由からの逃走』ですね。

「小人閑居して不善を為す」ではないですが、
そうして高校生という肩書きから解放され、
自由になると、その孤独感を紛らわすためか、
やがてどんどん生活が乱れていきます。

ごはんの代わりにお菓子ばかり食べている、という子がいます。
ず〜〜っと友達が自分の家に入り浸っている、
または友達の家に入り浸っている、という子もいます。
ゲームやネットにはまったり、ラーメンにはまったり、
毎日、目が覚めたら夕方だ、という子もいれば、
バイトでクタクタになって、学校に来られなくなる子もいます。
中にはとんでもないバイトに誘い込まれる子や、
どろっとした恋愛関係にはまりこんで、学校どころではなくなる子もいます。

食生活や生活のリズムの乱れが続くと、やがて起きるのが、
姿勢や呼吸の乱れ、人間関係による心身の疲弊。
それらがやがて、不登校、鬱、引きこもり、自律神経失調症を招いたりもします。

高校時代から、そこそこ生意気に、奔放にやっていた子でさえ、
大学生活の最初の数ヶ月は、なんとも身の置き所のない孤独を感じるものです。

自由であることの孤独。
何をしてもいい。何もしなくてもいい。
そんな状況にいるときの、たまらない焦燥感。

でも、そこから逃げたらダメなんです。

その孤独の向こうに、本当の自分との対話が生まれます。

家族や先生たちの思惑。規則や規律という枠。
それらは、自分自身と向き合うこと、
自分の未来を自由自在に思い描くことのノイズです。

誰が決めるのでもない。
他の誰かの思惑に流されるのではない。

自分の思い、自分の夢、自分の未来、自分の好きなもの、
自分を高揚させるもの、
自分、自分、自分。。。。

その大切な時期を中途半端に、
孤独や虚無感から逃れるゲームに熱中して過ごしていたら、
一生不完全燃焼になります。

いい年になってから、あの頃もっとがんばれば・・・
あたしだって、ホントはもっと・・・
などと、人生を後悔したり、取り戻そうともがいたりすることになります。

これは大学生だけの問題ではないかもしれませんね。

自由は孤独なものです。
誰だって孤独は怖い。
そして、そして、人はみな孤独なものです。

怖れず、向き合っていきましょう。

やっぱり自分。結局自分。
なんだかんだ言ったって、自分なのです。

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