練習の成果は「ある日突然」やってくる
はじめて「上のF」が地声で出た瞬間を、
今でも鮮明に覚えています。
学生時代は、せいぜいAかBくらいまでしか出なかった地声。
アレサ・フランクリンの曲の途中に、
地声で「上のF」でシャウト、というのがあって、
それが、もう本当にカッコよくって、
どうしてもそれを出したくて。
でも、練習しても、練習しても、
せいぜい「上のD」がギリギリ、
金切り声のように出るか出ないか。
毎日のようにアレサの声に合わせて歌い、
ピアノに向かって発声練習を試み、
リハーサルで、力一杯チャレンジし・・・
それでも、裏声になってしまったり、
全く届かないで割れてしまったりと、
かすりもしなかった「上のF」。
それがなんと、ライブ本番中、
その曲のパフォーマンス中に、
いきなり、しかも、気持ちよく、
ポ〜〜〜ンと出たのです。
一瞬、自分でもなにが起こったのかわかりませんでした。
「え?」と驚くくらい、
その声はパキ〜ンと抜ける、
小気味いいような高音&シャウトでした。
それまで、一度でも出ていた声なら、
「火事場のバカヂカラ説」も通用するでしょうが、
何しろ、かすりもしなかった声。
それがなんと、完璧なクオリティで出た・・・・。
何度振り返っても、どうやって出したのか、
どんな力加減で出せたのか、まったく思い出せません。
言えることは、ただ・・・
いつか、なんとしても出したいと思っていた。
ものすごく聞き込んだ。
めっちゃマネ(しようと)した。
何度も何度も練習した。
あの手この手で失敗を繰り返した。
そして、本番、ままよと、
すべてを忘れて、歌に集中した。。。。
練習の成果はちょっとずつ上がるとは限りません。
脳は、カラダは、
どんなに練習しても、
ず〜〜っとレベル0のまま、
こちらのやる気と本気を試してきます。
さまざまな神経系と筋肉系のコネクションは、
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、
目的のカラダの動きを引き出そうとあの手この手でがんばります。
どんな機械でも、線がたった1本繋がっていないだけで、
目的のスイッチは入りません。
あと数ミリ、線を伸ばすだけ、
あと数ミリ、左に寄せるだけ・・・
あと数ミリですべての回路がONになるかもしれない。
そして、それは、次の瞬間かもしれない。
試行錯誤の積み重ねがなければ、
その「瞬間」は訪れません。
試行錯誤の途中であきらめてしまっても、
けして、その「瞬間」に出会えません。
最後の線が繋がる瞬間。
なんの成果も出ていないように見えても、
確実にその瞬間は近づいています。
そう信じて、
ただ、ただ、積み重ねるしかないのです。
コアでマニアックなネタをお届けする、ヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。
関連記事
-
伸び悩む人にする10の質問
「キミ、ホントにうまくならないなぁ。」 今日は、そんな風に言われた時、 または、 …
-
人はアウトプットすることで成長する
「学ぶ」といえば、本を読んだり、音楽を聴いたり、人の話を聞いたりと、 インプット …
-
「違和感」を放置しない。
私たちの脳は毎秒1000万ビット以上の情報を処理できると、 神田昌典さんが書いて …
-
やっぱ、英語なんだよなぁ。
日本語の歌を歌っているとめちゃくちゃカッコいいのに、 英語の歌になったとたんに、 …
-
「情報」との関係性を見極める
学校で音楽や歌を学ぶ一番のメリットは、プロフェッショナルの先生方に、 そのノウハ …
-
リズムが悪いと言われたら真っ先にすること。~Singer’s Tips#10~
「リズムが悪い」と言われた時、 真っ先に点検すべきは、 点=ビートを捕らえられて …
-
テンポが速い曲の練習方法~Singer’s Tips #26~
「ゆっくり目の曲はうまく歌えないんです。 テンポの速い曲の方が得意です。」 時々 …
-
勘違いか?わかってないのか?はたまた、なめてるのか?
ライブでもレコーディングでも、 いや、リハーサル、または実技の授業などであっても …
-
「どうせ向いてない」を変える3つのプロセス
楽器の練習や歌の練習、パフォーマンスや創作活動がうまくいかないとき、 自分がどう …
-
「とにかくやる」
「やりたくないときほど練習をすると、やってよかったと思えるわよ」 …
- PREV
- 「どう記録するか」より、「どう記憶するか」
- NEXT
- ちゃんと鳴らす!