大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「彼の演奏は完璧だ。だけど、彼の演奏はEmpty(空っぽ)なんだ。」

   

「この歌手は”お上手”過ぎて、面白くもなんともねーな。」

ステレオから、テレビから、
流れてくる歌手たちの歌を聴きながら、
父は時々、こんな風にぼやいたものです。

 

へたくそな歌手にも容赦なかったので、
別に、へたな方がいいと言う意味ではないでしょう。

 

しかし、父の言う「お上手」は、
絶対に褒め言葉ではありませんでした。

 

「こういう優等生みたいな、
面白くもない歌だけは歌わないでくれよな。」

 

 

歌というものに一家言持っていた父は、
歌を志すようになった私に、よくそんなことを言いました。

 

父の言う意味がハッキリわかったわけではなかったけれど、
確かに、父が”お上手”と評する歌には心惹かれる、
「なにか」が欠けていました。

 

ニューヨーク時代の親友で、
ブラジルから国費で留学していたパウロ・マルテリとも、
同じような話をしました。

 

ある日本人ギターリストを評し、
 

「彼は本当に素晴らしいテクニックの持ち主だ。
あんなに正確に、完璧に弾ける人は世界にもなかなかいない。
だけどね、MISUMI。
彼の演奏はEmpty(空っぽ)なんだ。」

と語ったパウロ。

パウロの演奏は、信じられないくらいエモーショナルで、
感動的で、聞く人の胸を打ちました。

 

当時のパウロと私の結論。

 

自分自身を、
そして、自分が表現したいものを、
過不足なく表現できるだけのテクニックを身につけること。

それこそが練習の目的である。

表現したいものは、
常にテクニックを上回り続けなければならない。

そして、テクニックは、
成長し続ける自分の内面を追いかけ続けなければならない。

それこそが、アーティストというもので、
私たちは「技術屋」になってはならないのだ、と、

共に誓い合ったものでした。

 

それは、渡米前、
高い技術を要求されるスタジオを中心に仕事をしていた、
自分自身への戒めでもありました。

 

今も、私の信条は変わりません。

プロは、うまいのは当たり前。

しかし、自分の歌を聴いた人に、
「うまいね」としか言われなくなったら、
歌はやめた方がいい。

 

ただし、人を感動させられるほどの「うまさ」を持てるなら別。
世界広しといえども、
人を感動させ、興奮させられるほどのテクニックがある人は、
ほんの一握り。
 

その領域に足を踏み込むなら、
それはもう、圧倒的な、
超絶技巧を身につけるレースに出る覚悟が必要。
 

ただし、プロ中のプロでも、そんなレベルの人は、
まぁ、滅多にお目にかかりませんから、
オリンピックの選手とおなじで、
目差してなれるものではないのでしょう。
 

そんな特別な人たちでない限り・・・

 

歌は心を伝えるもの。

歌は人なり、です。

魅力的な歌手である前に、魅力的な人であること。

いつも心に伝えたいことがあふれていること。

 

人前で歌う人なら、
いつも胸に手を当てて、考えたいことのひとつです。

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