大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

口コミで仕事がくる人の秘密の習慣

   

音楽業界のような、入れ替わりの激しい、熾烈な場所で、
私のようなヴォーカリストが、
何十年も、いい感じでお仕事をさせていただいてきたのは、

会うべき人に、
会うべきタイミングで会えたことや、
仲間やお仕事に恵まれたことなど、
幸運の積み重ねがあったからということは、間違いありません。

 

とはいえ、

事務所に所属しているわけでもないアーティストが、
スタジオの世界で、口コミだけで、
何百曲ものお仕事をいただけたのは、
レコーディングのたびに私が自分に言い聞かせ、
心がけてきた、秘密の習慣があったから、という自負もあります。

 

あまり公の場で語ることはないネタですが、
(なんか策士っぽくて、いやらしいしね・・・)

今日は、世に出ようと目論む、
若きミュージシャンたちのために、
夏休み出血大サービスとして、
「口コミで仕事がくる人の秘密の習慣」を、
すべて「弊社比」ということで、お届けしたいと思います。

 

1.インパクトのある存在感を醸し出す

「スタジオに入る瞬間が勝負よ」と教えてくれたのは、
先輩売れっ子ミュージシャンでした。

隙のない雰囲気で、
格好よくスタジオに入ってくるシンガーを人は忘れません。

そして、一声め。
何が何でも、第一声はインパクトのある声を出すこと、
と決めていました。

マイクチェックで軽く歌った後で、本番どかんと声を出すと、
あまりのことにびっくりして、機材を止め、
マイクのセッティングを変えに来たエンジニアさんも、
たくさんいました。
 

インパクトや存在感のアピールの仕方は、
きっと、人それぞれ、違うはず。

それを考えるのも、ヴォーカリストの仕事の一部です。
 

2.どんな要求にも動じない

スタジオの現場で「無茶ぶり」は日常茶飯事です。

クリックしかない状態でスタジオに呼ばれて、
1時間後にはクライアントがチェックにくるから、と、
別室で歌詞を書かされ、
(当然、同時にメロを作曲もすることになりますが)
30分後には、ブースに入って歌っていた、
なんてこともあります。

夜中の1時にいきなり電話がかかってきて、
翌朝の10時までに4パターンの歌詞を書いて、
スタジオに来て歌って欲しい。といわれたこともあります。

さらにすごいのは、
その時点では、まだ曲が1曲もできていなかったこと。
朝7時にはできるというので、起きてみたら、
6パターン届いていて、ひっくり返りました。

もちろん、CMなので15秒ですが、
10時にスタジオに入って、
1時間で6パターン歌い終えたときには、
さすがに自分を誉めてやりたくなりました。

 

そうそう、
ホームパーティーの途中でいきなり呼び出され、
お客さんを待たせてスタジオに行って、
30分くらいで歌い倒して、帰ろうと思ったら、
別のディレクターに「おぉ、いいところに」と、
他社のプログラムのレコーディングに呼び込まれ、
結局1時間あまりで、2曲を歌い倒して帰ってきた、
ということもあったっけ。
 

いずれも、洋楽テイストのカッコいい曲で、
後にゴールデンタイムに、
超ヘビーローテーションでかかっていました。
無茶ぶりを飲み込む。

自分をどこまでプッシュできるかも、勝負の決め手です。

 

3.現場で要求されていることを徹底的に感じ取り、形にする

人を相手にして仕事をする以上、
どんな業界でも、コミュニケーション能力は必要不可欠です。

 

とはいえ、音楽の現場でのコミュニケーションは
なかなかハードルが高いのが常です。

「ちょっと艶っぽく、それでいて、きらっとした感じでお願いします。
あ、でも、清潔感は大事なので。。」

「ヨーロッパの草原でふわりと横たわっている気分で」

「ここはスタジアム!って感じで雄叫んでください」

・・・

イメージを伝えることばはさまざまです。

もちろん、そのことばで自分の頭に浮かぶイメージが、
ディレクターの頭の中のイメージと一致するとは限りません。

「ヨーロッパの草原」と一口に言っても、
荒涼とした寒々しい草原もあるでしょう。

スタジアムといっても、
ヤンキーススタジアムなのか、甲子園球場なのかによっても、
聞こえてくる音は全然違います。

大切なのは、自分の解釈ではなく、
その瞬間、ディレクターたちの頭の中で、
どんな音が鳴っているのかを想像し、
彼らの頭の中にある音を声で表現してみせること。
 

もしくは、彼らの頭の中で鳴っている音よりも、
より説得力のある、インパクトのある声の表現をすること。

イメージ力が鍵です。

 

いかがでしょう。

 

まだまだ書きたいことはいっぱいあるのだけど、
気がついたら結構な分量になっていたので、
今日はこんなこの辺で。
 

音楽の世界で生きていくためには、
練習以外に、やらなきゃいけないこと、考えるべきこと、
たくさんあるのです。

のんびりしている暇はありませんぞ。若者よ。

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