大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

音楽の価値って?

   

「いやぁ〜、サードに針落とすとさぁ、
『移民の歌』のイントロの前に、うっすら聞こえる音がさぁ、
「始まるぞぉ〜」、みたいでゾクゾクしたんだよね〜。」

「『レイラ』の最後のピアノ、最初聞いたときは、なんじゃこりゃと思ったんだけど、だんだんくせになるよね〜」

 

なんのこっちゃと思う人も多いでしょうが、
ロックミュージシャンが集まると、
こんな話で大盛り上がりになった時代がありました。

みんなが共通言語としての音楽を持っていた時代。

音楽はコミュニケーションツールとしての役割も果たしていました。

 

最近は、音楽はもっぱら個人のもの。

好きな曲だけダウンロードして、
独自のプレイリストをつくって、
自分の好みの順番で聴きたい曲だけを聴く。
 
なんならお手軽にYoutubeやSpotifyで、
無料で次々新しい音楽を聴いていく。

 

「え〜?なんで、アルバム聞かなくちゃいけないんですか〜?」
 
好きなアーティストのアルバムというものを、
最初から最後まで聞いたことなんかないという、
スマホ世代の若者のことばです。

 

10年後、今流行の、どんな曲が名曲として残っているのか。
 
これから、ビートルズやストーンズのように、後世に名前を語り継がれるようなアーティストやバンドは、どうやって生まれてくるのか。
それとも生まれてこないのか。
 
この先、音楽ソフトの形態はどんな風になっていくのか。

 

受け手がどんなカタチで音楽を手に取ろうと、
創り手の、送り手のパッションは変わりません。
 
表現方法がどれほど多様になったとしても、
人間の心と、カラダと、声が音楽を創ることには、
何の変わりもない。
 
想いを音にしようという人間の、
「創作努力」の価値が下がることがあってはならない。

 

レコード屋さんでワクワクと新譜を手に入れるような時代はもう来ないかも知れません。
 
アーティストが作品に込めた想いのすべてを探るべく、アルバムジャケットをためつすがめつ、ステレオと向かい合ってレコードを聴くような時代も戻ってこないでしょう。

 

創り手、送り手、作品そのものに対するリスペクトや興味は、
このままどんどん薄れてしまうのか。
 
誰もが、作品に対する対価を払わずに音楽を楽しむようになったら、
現実的に、それでもなんでも、生活のすべてを、人生のすべてを、音楽に注げるという人が、一体どれだけいるだろう。
 
時代は逆行できません。
 
新しい時代に、新しいスタイルで音楽を楽しむオーディエンス。

今さら、罰則をつくったり、
後追いで細かい規約をつくって、お金を集められるのも、
なんかしっくりこない。

 

アーティストや業界人たちのためだけではなく、
音楽そのものの未来のために、
 
お賽銭箱にお賽銭を入れないでお参りをする人がいないのと同じような・・・
 
誰もが「対価を支払わなくちゃ」と感じるような、
音楽に対するきちんとした価値感がうまれるしくみ。

 

そんな、素敵なしくみ、きっと誰かが考えてくれるはず。
いや、きっとみんなで考えていけるはず。

 

その日まで、音楽家たちは、じっと堪え忍ぶしかなさそうです。

◆ 6日間12ユニットでヴォイス&ヴォーカルトレーニングのすべてを伝える、【第4期 MTLヴォイス & ヴォーカル レッスン12】お申し込み受付中。
◆週末発行のヴォイトレ・マガジンは、声や発声に興味のある方必見、「愛しの声帯様のお話」です。
MTL Online12から、トピックの関連映像を期間限定でごらんいただけるようにしました!購読はこちらから。

 - 音楽, 音楽業界・お金の話

  関連記事

「音楽」という流れをつかむ~Singer’s Tips #15~

一音にこだわる。 1ポーズにこだわる。 歌も踊りも、 重箱の隅をつつき倒すように …

音ジャンク vs. 音グルメ

先日、お友達の某有名ドラマーKさんとお話していた時のこと。 レコーディングの際の …

この子、「化ける」かもしれません。

歌が本格的にお仕事になる前、 CMや映画などの音楽プロデューサーのアシスタントを …

ミュージシャンの「ステータス」も数字?

ビジネスの世界で活躍している男性たちを見ていると、 日々、華やかな数字の話ばかり …

「売れ線狙い」は劣化コピーを生む。

「これ、今、売れてるから、この路線で行こう!」 そんな風に言うおじさまたちが、一 …

「そこにお金を惜しむな!」

「そこにお金を惜しむな!」 音楽業界で、ビジネスの世界で、出版業界で、そして、人 …

「彼の演奏は完璧だ。だけど、彼の演奏はEmpty(空っぽ)なんだ。」

「この歌手は”お上手”過ぎて、面白くもなんともねーな。」 …

なんだ、カラオケって、楽しいじゃんっ!

あたくし、今さら言うのもなんですが、 実は、カラオケが大の苦手でした。 これ、ミ …

「オケ」じゃなくて、プレイヤーの顔のついた「音」を聞くんですよ。音楽って。

年寄り自慢をするつもりは毛頭ありませんが、 (あたりまえ) 一昔前は歌を歌いたか …

「知的財産」に敏感になる

情報には一次情報と二次情報があるといわれています。   一次情報とは、 …