大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ピッチが悪いの、気づいてます?

   

少し前のこと。

知人に誘われたとある会社のパーティー会場の片隅で、
いきなりジャムセッションがはじまりました。

聞けば、その会社の社長さん、ギターがご趣味。
ご自身でバンドもやられているとか。

しばらくすると、社長さんと、
バンド仲間と思われるヴォーカルの女性の演奏がはじまりました。

ヴォーカルの女性は、実にダイナミックなスタイルで、
ブルースナンバーを、思いきりアドリブしながら歌っています。

よく通るいい声です。
英語も達者なようです。

日本人には、そうしたダイナミックな、
思い切ったアドリブをできる人というのが少ないので、
日本のアマチュアにも、こんな風に歌う人がいるのだと、
関心しながら聞いていました。

まわりのお客さんの中にも彼女のファンがいるようで、
「いやぁ、彼女の歌はいつ聞いてもすごいなぁ」
と言っています。

社長の粋なギターも、いい感じで、
会場は大いに盛り上がりました。

 

やがて、しばらくして、歌い終えた彼女が近くにいる人たちに、
「私はプロだから」と言って歩いているのが耳に入り、
少しがっかりすることになります。

近くにいた、別のミュージシャンたちも、
おや?という顔をしています。

理由は簡単です。

彼女は、とにかくピッチが悪かったのです。

ストレートにメロディを歌っていても、
全般にわたり、なんとなく音が当たっていない。

アドリブは、ラインが全く見えません。

きっとこんな感じで歌いたいんだろうな・・・というのはわかる。

しかし、楽器に対して、
音が気持ちいいところにいないのです。

だから声の抜けも悪い。
ビートの輪郭も見えない。

 

アマチュアなら、すごいね、立派だね、となる歌ですが、
「プロ」を語ってしまったら、残念ながら、それではダメです。

もしかしたら、彼女の場合は、
日頃、全然違うスタイルの歌でお仕事をしているのかもしれません。

もしかしたら、たまたまその日、
PAが悪かったとか、泥酔していたとか、
そういうことかもしれません。

そして、もちろん、
ピッチがところどころ当たってなかったとか、
ミストーンがあったとか、ということは、
どんなプレイヤーにもあることです。

 

しかし、しかし、
それでも、

「ピッチが悪い」は、
やっぱり、ダメなんです。

チューニングの悪いギターで演奏するのとおなじ。

本来、ピッチが悪いとシロウトさんが聞いても、
「なんとなくぱっとしない歌ね」となりますが、
彼女の場合、主にアドリブだったので、
一般の方は気づかなかったのかもしれません。

 

「ピッチ」というのは、非常に微妙なものです。

日頃ピッチの正確な人でも、
体調や音響によって、どうも今日はピッチがよくない、
という日もあります。

ソロで歌っているときは気づかなかったけど、
デュエットしてみたら、お互いのピッチの微妙なブレに気づいた、
ということもあります。

 

そんな、数ヘルツの、微妙なピッチに敏感になること。

「当たっている」という感覚を、
カラダレベルで自分自身に覚え込ませること。

プロフェッショナルの「ピッチ」はそういうものです。

 

一聴して、「一個もちゃんと当たってない」という人、
人にはよく「ピッチが。。。」と言われるけど、
「自分自身で当たっていないことに気づけない」という人、

先ほどの女性に限りません。

残念ながらヴォーカリストには実に多いものです。

 

まずは、胸に手をあてて、
じっくり自分の歌を聴いてみましょう。

ピッチ問題だけは、
絶対に後回しにしないで、
今日から、今から、取り組みましょうね。

【メルマガ『声出していこうっ!me.』にて”ヴォイトレ365″ をスタート】
これまで私を、MTLを支えてくれたブログ読者さん、メルマガ読者さんたちへの感謝を込めて、2017年12月1日から365日間、声とヴォイトレを語り倒す”ヴォイトレ365″をお届けします。
私と一緒に365日、走りませんか?
メルマガ登録がまだの方で、「一緒に走るっ!」という方はこちらから。

 - The プロフェッショナル, イケてないシリーズ

  関連記事

「髪の毛一本」にこだわる。

「ヴォーカル(の音量)、”髪の毛一本”上げてください。」 …

「選ばれる基準」

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」とは、 日本の最高額紙幣に印刷され …

「自分の名前」と、今一度向き合う。

作詞者は曲のタイトルを。 編集者は、本のタイトルを。 起業家は会社名を。 そして …

エネルギーのピークは本番に持っていく

「歌う当日って、どんなことを心がけたらいいですか?」 という質問をよく受けます。 …

「あなた、ジャズを勉強したこと、あるの?」

ニューヨークにある音楽学校、マンハッタンスクールオブミュージックの、 奨学金試験 …

“トレーナー”というものの役割を思う。

音楽の世界ってゴールはないんだよな。 ワクチンの軽い副反応で、 なかばサボりなが …

「イケてないメンタル」を打破する

本番になると、やたらミスばかり犯してしまう。 プレイは悪くないんだけど、いまひと …

「違うんだよねぇ」と言われる「イケてないコピー(orカバー)」とは?

「自分にたくさんの感動やエネルギーを与えてくれた名曲や名盤の数々を、 いつか自ら …

人は生涯に、何曲、覚えられるのか?

優れた作曲家、アレンジャー、プレイヤー、 そして、ヴォーカリストの多くが、 びっ …

「もっと心をこめて歌ってよ」!?

「歌は心」的な話は苦手です。 心をこめて歌おう、 情感たっぷりに歌おうとがんばる …