大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

本当に大切なことは現場が教えてくれるんだ。

   

某映画のバンド演奏のシーンの撮影に立ち合ったことがあります。

役回りは、出演者の「当てぶり」が、
うまくいっているかどうかをチェックする、というもの。

当時アシスタントについていた音楽プロデューサーに、
いきなり、「お前行ってこい」的に振られたお仕事でした。

楽器演奏経験も、バンド経験も、
ほとんどない若者たちが、
自分たちが演奏している態で、
スタジオミュージシャンの演奏に乗って当てぶり、をする。

鍵盤はそこそこ、
ギターはギリギリ知っている程度の私でしたが、
「演奏と音が合っているか合ってないかくらいわかるだろ?」
というプロデューサーの無茶振りに文句も言えず、
勇気を出して現場に向かいました。

2〜3回当てぶりのレッスンをした後、
実際の現場に立ち合う、という流れ。

まだ若かったとは言え、
長年音楽をやってきたおかげで、
確かに、当てぶりがずれているか、
ちゃんと演奏しているかどうか見えるかくらいの判断はできると、
リハ中にそれなりの自信をつけ、本番に向いました。

 

真冬の、まわりには田んぼばかりという農家の納屋に、
それはそれは大勢のスタッフが詰めかけて、
撮影は執り行われました。

農家のお茶の間で、
有名俳優の奥様と差し向かいで待つこと数時間。

気がつけばあたりはとっぷりと日が暮れています。
街頭もない地帯ですから、それはもう、漆黒の闇です。

納屋の扉の向こうだけが別世界。

照明器具、録音機材、撮影機材、
撮影用レール、楽器、音響機材・・・などなど、
所狭しと並べられた空間は、
スタッフと出演者でごった返しています。

まばゆいばかりの照明に照らされた、
若者たちの緊張が手に取るようにわかります。

スモークが焚かれ、
照明さんが明るさを機械で計測し、
カメラマンがカメラをのぞき込み、
助監督さんがカチンコを持って、カメラの前に立つと、
周囲は一気に緊張した沈黙で満たされます。

助監督さんが周囲に向かって大きな声で告げます。

「本番お願いします!」

そこに、監督の鶴の一声です。

「よーい、スタート」

静まりかえった空間の中で、
音楽が流れ、若者たちは、思いきり楽器演奏を演じます。

私はただ、じーっと、その光景を見守るのみです。

しばらく撮影すると、おもむろに監督の「カット!」の声。

助監督さんが各セクションに、大きな声で声をかけていきます。

「照明さん、OKですか?」
「OKです!」

「カメラさん」
「OKです!」

次々と各セクションからOKの声がかかり、
やれやれ、このシーンの撮影も終わりかとみんなが思ったとき、
いきなり、監督が私に向き直って、こう聞きます。

「先生、いかがでしたか?」

・・・・・はい?

 

映像も、照明も、録音も、演技も全部OK。
これで、演奏が完璧なら、OK出すんです。

ということらしい・・・

きゃーーーーー。。。
とんでもない現場に来ちゃったわと、
後悔しても後の祭りです。

全スタッフ、全出演者の注目が私に集まっています。

そういえば、さっき、
ちょっとギター押さえる指がよれた気もする。
あぁ、ドラムのタイミング怪しかったか・・・
でも、やり直したって、ホントに今よりよくできるのか?
今より悪くなって、無限ループにはまり込んだりしないのか?
そんな細かいこと、ホントに聴衆は気になるのか・・・?

ものすごい葛藤がありました。
おとなたちの視線に、押しつぶされそうでした。

 

その時、私の目をじーっと見つめて言ってくれた、
監督さんの一言は、今も忘れられません。

「先生が、大丈夫と思わないなら、何度でもやります。
楽器のわかるお客さんも見る映画です。
気を使わないで正直に言ってくれた方がいいんです。」

あぁ、この人は、真剣なんだ。
真剣に、いい映画を作りたいんだ。

そんな、熱意が、私に勇気をくれました。

「ギターがよれていたと思います。
ドラムも、微妙にずれていました。」

震えながら言った私の一言を聞いた瞬間、
監督がよしっとうなずき、
大声で「もう1回っ!」と叫びました。

 

結局、そんな、たった1曲の撮影は、
朝までかかって、
何シーンも続いたと記憶しています。

 

自分が納得したものをつくるためには、
可能な限り妥協しないこと。

できる努力は全部すること。

制作の現場において、年功序列に甘えてはいけないこと。

自分に与えられた役割は、
どんな重圧の元でも、全力で果たすこと。

作品にこめた思いは、確実に見る人に伝わっていくこと。。。

 

20代半ばの冬でした。

思い返せば反省ばかり。
役に立てたかどうか確信もありません。

それでも、あの時、あの現場にいられたことは、
本当に自分にとって特別な経験でした。

 

結局、本当に大切なことは現場が教えてくれるんだ。

今も、毎日、現場で学んでいます。

 - Life, My History, The プロフェッショナル

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