あちこちのバンドに誘われ、学祭を渡り歩いていた学生時代。
就職か、フリーターか、という岐路に立ったとき、
手元にあった音楽雑誌で、当時活躍していたミュージシャンたちを眺め、
いつか、この人たちと同じステージに立とう、
この人たちに、「お前の歌、すごいな。」って言われるようになろう、と決意した。
根拠なんかない。ただ、そう決めた。
そのためには24時間、音楽のことを考えていられる状況に自分を置こうと思った。
それで、就職は人生の選択肢から消えた。
テレビに出たいとか、有名になりたいとか、注目されたいとか、
そういう動機でやっていたら、たぶん、ここまで続けられなかったと思う。
ただ、好きだった。夢中だった。
それだけだったけど、その力がすごいんだと思う。
好きなことを続けて行くのは、抵抗勢力との闘いだ。
まず、お約束の「お前には無理だ」がある。
そして、「キレイなとこばかり見てるけど、
ミュージシャンで仕事するなんて、歌謡曲のバックやったり、
カラオケつくったりするんだぞ」というクールな意見がある。
実際、駆け出しのころは、音楽で仕事をすることは、とてつもなく苦痛だった。
J-pop、歌謡曲が苦手。
いわゆるギョーカイ人が苦手。
譜面が苦手。
テレビの歌謡番組などは一切見ない、
「コーラス」なんて職業があることさえ知らなかった。
ピッチ、リズム、ルックス、アチチュード・・・
数限りないダメ出しに遭い、セクハラに遭い、イジメに遭った。
そんな苦痛の日々の中で、
好きなことを続けようという想いにとっての一番の抵抗勢力は
「こんなことしていて、なんになる?」という、心の中の声だ。
こんな、好きでも、得意でもない仕事をするために音楽を続けてるんじゃない。
どうせ誰にも認められないなら、英語力を生かして就職して、
趣味で音楽をやっていけばいいじゃないか。
そうやって、納得しようとするたびに、
いつももう1人の自分が、声高に応戦した。
私は一流になりたいのだ。
誰にだって、駆け出しの、ダメダメだったときはあるのだ。
最初から、ものすごくうまいヤツなんて、所詮それ以上伸びないのだ。
仕事に選ばれるかどうかを怖れているうちは、まだまだ三流だ。
自分が仕事を選び取れるような歌を歌わなくてはダメなのだ・・・・
結局、どこかで、「自分にはできる」と、
信じることがやめられなかったのかもしれない。
そして、やっぱり、音楽が好きで、好きでたまらなかったのだ。
徹底的に、自分の「ダメ」と向き合った。
正直、辛い作業だったけど、ひとつ苦手を克服すると、それが自信になった。
少しずつ、いい仕事ができるようになると、いい仕事がくるようになる。
次々とやりがいのある仕事をまかされるようになる一方、
苦痛を感じていた類の仕事とは、自然に縁が切れていった。
仕事が楽しくてしかたなくなった。。。
まだまだ、ミュージシャンというキャリアの入口に立ったばかりだったけど、
その入口は、私にとって本当に遠かった。
音楽への想いだけが立たせてくれた、その場所。
実は、本当の自分との闘いはそこからはじまるのだけど、
その話はまた今度。