「なんでもできるんですね」
なんて言われると、「いかんな」と思う。
なんでもできるってことは、
つまり、なにひとつ極めてないってことで、
なんにもできないってことと同じくらい、
希薄で、おもしろくもなんともないことだ。
バランスのいい天才、なんてありえない。
かつて読んだダニエル・キイスの『ビリーミリガンと23の棺』には、
24もの人格を持つ、多重人格者、ビリーミリガンの人格が
治療によって統合されていく様子が綴られていた。
その24の人格の中に、
天才とも言える才能を発揮する人格がいくつか現れていたにも関わらず、
ひとつひとつの人格が統合されていくにつれ、
その才能がどんどん消えていったというのだ。
たくさんのことを抱え込むほど、
バランスよく、人生を生きようと思えば思うほど、
才能は希薄になって、それぞれの行動の精度が下がる。
それではいかにもおもしろくない。
生来の天才ですらそうなのだから、普通の人間がいろいろ抱え込めば、
能力を発揮できる可能性なんてあるまい。
抱え込みがちな荷物を、だからときどき、取捨選択、在庫整理しなくちゃいけない。
ライフワーク。
ライスワーク。
ミッション。
好きなこと。
やりたいこと。
得意なこと。
やるべきこと。
すべてがひとつに重なるように人生やキャリアをデザインできれば、
圧倒的な集中力と力を発揮して、最高の結果を得られるはず。
そして、
自分がやらなくてもいいこと。
今、やらなくてもいいこと。
やりたくないこと。
得意じゃないこと。
嫌いなこと。
さらには、
やりたくないのに、やらなくちゃいけないこと、やらざるを得ないこと。
そんな自分を窮屈にすることたちをばっさり、思い切って排除していく勇気も、
ときには必要なのだ。
天才には理解できない、
抱え込みがちな鈍才の悩みを、今日も生きております。