大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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変態の話は、なぜ面白いのか。

   

先日、ジェフ夫さん(ギターリスト・大槻啓之)の主催する”Jeff Beck Sound Lab.”にカメラマンとして参加してきました。

身内だから言うわけじゃないんですが、ジェフ夫さんの話、めちゃくちゃ面白いんです。

高校時代、ジェフベックのサウンドに度肝を抜かれ、オープンリールにレコードを録音して、再生速度を下げてコピーしたとか。
でもオープンリールだから、再生速度を下げるとぜんぶの楽器がオクターブ低くなっちゃって、実際の音を聞き分けるのに、めちゃくちゃ苦労したとか。

若い頃、ベックみたいな音出したくて、エフェクターを次々変えたけど全然ダメだったのに、いいギターといいアンプを買ったら、一瞬で思ってた音色が出た、とか。

話を聞きながら、「昔話だから面白いのか?」と思ってみたけど、そうではない。
奏法も、サウンド解説も、すべてジェフ夫さんが、目で見て、耳で聞いて、実際にやってみた末に、見出したことしか話していない。
つまり、すべてがジェフ夫さんの一次情報だから面白いのです。

「価値ある情報は一次情報だけ」とは、出版の師である土井英司氏の教えです。
・研究の末にたどり着いたもの
・実践で見いだしたもの
・経験を積んで確信に変わったもの
この3つを持つ人こそが、著者として価値があると認められる。

土井先生は言います。
「つまりね、変態ですよ。変態は著者の世界では褒め言葉なんです」

ジェフ夫さんと同じように、高校時代にジェフ・ベックを聞いて衝撃を受けた私。
ジェフ・ベックみたいに弾きたい!と、やっていたことは──

『ジェフ・ベック奏法』なる本をゲットし、タブ譜を追いかけ、
レコードを爆音で流しながら一緒に弾いて、「弾けてる気分」になって満足すること。
音楽雑誌の断片的な情報を頼りに弦を替えてみたり、エフェクターを盲めっぽういじったり…。
もちろん、誰かのフィードバックを受けたことはおろか、人前で披露したこともない。
これじゃ、100年がんばっても、まともに弾けるようになりません。

「まずは、通説を疑ってかかる」
「実践で検証して、はじめて情報は本物になる」

かくいう私も、歌に関しては、”ド”のつく変態を自負しています。

歌詞カードも、英語の先生も信じられなかった学生時代。
歌やピアノの先生にすら、常に懐疑的な態度で接していました。
(先生方、ごめんなさい)

正解はどこにも転がってない。
どんなに聞こえなくても、自分の耳で、
「そこに情報はある」と信じて、ただただ聞き続けるしかない。

ほんのりでも、わかったら歌ってみる。
歌えるまで、何度でも歌う。
しっくりこなかったら、また聞く。
腑に落ちる瞬間がくるまで、これをただただ繰り返す。

正解と思える歌にたどり着いたら、スタジオやライブで歌ってみる。
人からの評価を積み上げるうち、やがて自分が見いだした情報が確信に変わる。
否定的な意見が出たら、また振り出しに戻って検証です。

変態たちの伝える情報には、ひとつひとつ、風景があり、匂いがある。
費やしたとてつもない時間と、もがき続けた感情の余韻がある。

聞く価値のある話って、単なる情報じゃない。
体温の通ったストーリーなんだ。
ジェフ夫さんの話を聞きながら、心から思った時間でした。

変態でいることは、時にとっても苦しいのだけど、
やっぱり私、変態でよかったなぁ。

 - The プロフェッショナル

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