大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ヴォイストレーナーという仕事

   

自分にできないことは教えられない。

いろいろな考え方があるでしょうが、
私は、歌に関しては、これがすべてと考えています。

これは、ヴォーカリストとしてのお仕事を通して、
体験的に学んだことでもあります。

理解できない歌は歌えないのです。

テクニカルなことのすべてがクリアできても、
音楽的に、教科書通りに歌うことはできても、
そこにスピリットが通わない。
つまり歌になりません。

同じように、どんなに頭でわかっても、
腑に落ちないことばは伝えられない。伝わらない。

歌えない人に歌の批評をされても、
教えられる側は途方に暮れるばかりです。

しかし、歌の評価が高ければ、
いい指導者になれるというわけでもありません。

伝統芸能の世界では、
芸事は師匠を真似て、カラダで覚えるもの。

しかし、3〜4才からお稽古をしてきた人たちならともかく、

17〜18才を過ぎてから、
そんな気の遠くなるようなことをはじめても、
時間がかかるばかりで、なかなか成果はあがりません。

おとなになってから芸事を身につけるには、
科学と論理、そしてエビデンスのある、
しっかりとしたメソッドが必要なのです。

 

指導者に求められるのは、
歌とカラダ、そして音楽に対する圧倒的な理解。
歌の実力とキャリア。

そして最後に、
もうこれが、本当に大切なんですが、

指導する人たちに対する愛情と、
コミュニケーション能力です。

自分のキャリアを
生徒に投影してはいけない。

生徒に尊敬されよう、
生徒をコントロールしようなどと、
考えてはいけない。

生徒に嫉妬したり、
ライバル心を持ったりしてはいけない。

もちろん、生徒に媚びてもいけない。

 

信頼関係を築くことの大切さ、
難しさはどんな社会でも同じですが、

だからこそ指導者は、
どんなときも学ぶことを怠ってはいけない。

あらゆる機会に、
自分自身の表現力、言語力を鍛え続けなくてはいけない。

そんなことを日々考えながら、
精進を続けるのです。

◆基礎力がないわけではないのに、歌の評価が上がらない。思うようにキャリアアップできない。そんな悩みを抱えるシンガーのためのスーパー・ワークショップ“MTLネクスト”、始動。
◆6日間で歌とヴォーカルの基礎のすべてを学ぶ『第9期MTL12』の日程決定!
4月11日(土)、4月25日(土)、5月9日(土)、5月23日(土)、6月6日(土)、6月20日(土)詳細は近日公開!
◆メルマガの無料登録はこちらから。

 - B面Blog, The プロフェッショナル, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

つぎはぎ、修正、補正だらけの歌に、「パッション」は宿らない!

「1回しか歌わないわよ」   レコーディングのとき、そう言って、本当に …

歌を歌って音楽の世界で活躍したい人に必要な3つの資質

歌を歌って、音楽の世界で活躍したいという人にとって、 必要な資質はなんでしょう? …

「自分のことば」になってない歌詞は歌えない!

役者さんがしばしばつかうことばに「セリフを入れる」というのがあります。 この「入 …

説得力のある人は、エネルギー値が高いのだ。

聞く人の心にどかんと飛び込む「説得力あるパフォーマンス」。 はじめてギターを抱え …

よき時代のよきものを、 いい形で後世に伝える方法

高校時代、何が嫌いって「古文」の授業くらい 嫌いな授業はありませんでした。 使わ …

未来の自分を信じる~Singer’s Tips#29~

自分がオーディエンスだったら、 どんなシンガーを見たいか? どんな歌を聴きたいか …

弟子と生徒とクライアント

「あぁ、○○ね。あいつはオレの舎弟だから。」 「ありゃオレの弟子だよ。」 ミュー …

いますぐできる!呼吸力アップのための、ホントの「深呼吸」

「一生の呼吸数は決まっている」 というインドの教えがあります。 「短く速い呼吸を …

わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人

「歌のうまい人」には2種類います。 ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、 …

何ごとにも終わりはくる。絶対の絶対に、くる。

好きなことしかやりたくない。 こうと決めたら即断即決即行。 私自身は、いわゆる「 …