作品づくりは美意識のせめぎ合い
優秀なミュージシャンというのは、
自分がたった今プレイしたテイクが、
どんな出来だったか、
プレイバックを聞くまでもなく、
感覚的にわかっているものです。
つまり、ディレクターさんに「OK」、
または「もう1回お願いします」と言われる前に、
自分の中である程度ジャッジできているわけです。
自分の中でのジャッジと、
ディレクターやアレンジャー、
時に仲間のミュージシャンのジャッジが一致するときは、
非常にハッピーにお仕事が進むわけですが、
これがなかなかそうはいかない。
それぞれがこだわっているポイントが違うからです。
自分的にはピッチがよれて、しっくりこないテイクなのに、
「勢いがあって、ぐっとくる」とOKが出ることがあります。
こちらとしては、そんな作品は残るのが嫌なので、
もう一回歌わせてくださいとお願いする。
ところが、ピッチやリズムがぴたりとハマると、
今度は「いや、面白くないです。さっきの方がパワーがありました。」
とくる。
そう言われると悔しいので、「じゃあ、もう1回だけやりますっ!」
と、やればやるほど、スリルがない、きちんとし過ぎる・・・
などと言われて、結局最初のテイクになることもあります。
反対に、何本かテイクを重ねて、
ディレクターさんが選んでくれたテイクが、
全然パワー感やおもしろみがない、
くそ真面目な歌になってしまっているときもあります。
こういう場合、「もう1回歌わせてください」が言いにくいもの。
「なにか問題がありますか?」と言われて、
なかなかそこが説明できないからです。
まぁ、ここで妥協すると、
後々絶対後悔することになるのですが、
「お仕事」で呼ばれた時は、時間と精度が勝負ですから、
おとなしく先に進みます。
なんで今のでOKが出たのだろうと納得できないことが続くと、
ジャッジした人に不信感を持つこともあります。
反対に、自分ではもう、この上なくいい感じに歌えたときに、
「はい、では今みたいな感じで、もう一回お願いします。」
などと言われた時はがっかりしますし、
もう2度と今みたいには歌えないのに・・・と、
絶望的な気分になるときもあります。
そうかと思うと、ジャッジすべき人が複数いて、
その場で「今のでいいじゃん?今の最高じゃん!」
「全然ダメだよ。わかってないなぁ。」などとはじまってしまうことも、
時々あってたりして・・・
つくづく、音楽というのは、
人と人との関係性で生まれていくものだと感じます。
いい作品やパフォーマンスを生み出すためには、
・自分自身の基準を持つこと
・基準に見合うだけの技術力や表現力を持つこと
・妥協なく取り組む姿勢をもつこと
・人の意見に耳を傾ける柔軟性を持つこと
・状況の許す限り、自らの納得できるところまで追い込む勇気を持つこと
必ずしも、いつもいつも守れることではありませんが、
こうした態度、姿勢を大切にすることが、
自分を高め、作品を高めてくれるのですね。
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