最後に「正解」を決めるのは誰だ?
とあるレコーディング現場でのことです。
ブースに入って、ソロプレイをするプレイヤーの演奏を、
コントロールルームで、2人のミュージシャン、
T氏と、N氏が聞いていました。
演奏が止まって、さぁ、今のはどうだ?と、ジャッジする瞬間、
T氏はいきなりブースの向こうのプレイヤーに親指を立てて、
ご機嫌なようすで、こう言うのです。
「Oh,イェ〜。最高じゃん。OK,OK!」
そばにいたN氏は、その言葉を聞いて、一瞬苦い顔をしつつも、軽くスルー。
トークバックに向かってこう言いました。
「リズムが甘いね。悪くなかったんで、もう一回やろうか。」
それを聞いたT氏、信じられないというようすで、
「は?どこがいけないの?今ので全然OKだと思うけど。」
と、言い出します。
2人の間に、一瞬にして緊張が走り、
その場にいた全員が、ふと下を向きました。
「これでOKといかいう意味、全然わかんないな。」
ひとりごとのようにN氏が言って・・・
音楽の現場では感性の違う人間が集まって作品をつくります。
T氏のような、その瞬間にしか生まれない「空気感」第一主義の人もいれば、
N氏のように、完璧主義で、完成度の高いものをつくりたい人もいる。
正解はひとつもありません。
自分の正解は自分が決める。
バンドの正解はメンバー全員の合議の上決める。(注:これはだいたい失敗する)
現場の正解はディレクターが決める。。。
それだけです。
こちらは、とあるプログラムのレコーディング現場の、
アレンジャー兼ディレクターさんのお話。
黒人のコーラスアーティストを呼んで自由にレコーディングさせていたら、
なんとひとりで24トラックもレコーディングして、まいったとか。
「確かに素晴らしいハモなんだけど、トラックめいっぱい使って、
後処理が大変だよ〜」と、軽く愚痴まじりで言う彼。
これでは誰の現場だか、わかりません。
一方で、こんなこともあります。
日本でたっぷり時間をかけて、
ゴージャスにレコーディングして行った音源を
LAの著名なエンジニアにTDしてもらったら、
どんどんトラックを削られて、
最終的にすっかすっかのオケになって戻って来たとか。
「これがね。カッコいいんだよ。そのスカスカ感が」
と、名前に弱い日本人らしい発言をしていたのは、
確か、どこかのディレクターさん。
アーティストや作曲家、アレンジャー、
そして、プレイヤーたちが、そのオケを聞いてどう感じたのかは、
結局謎のままです。
正解はないのです。
ゴージャスなオケも正解。
スッカスカも正解。
誰にまかせるか?
誰が最後にOKを出すか?
そして、誰がその責任を取るのか?
結局は、コミットメント。
それに尽きるのです。
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