大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ヴォイストレーナーという仕事

   

ヴォイストレーナーって仕事は、
本当に難しい仕事だと、日々感じています。

プロのヴォーカリストとして、
レコーディングもサポートもライブも
バンドも、ソロも、コーラスも、
ホントに数え切れなくらいやってきて、

「自分にできること、
自分ができるようになったプロセスを
すべてメソッド化、言語化、コンテンツ化する」をスローガンに、

プロのアーティストからアイドルの卵まで、
さまざまな年齢の、さまざまなシンガーに教えてきて、

音楽学校や音大で教鞭を取り、
スクールもやって、本も書いて、メソッドも組み立てて、
メルマガやブログやその他いろんなメディアで発信しまくって。。。

それでもさ、正直、わからないことは、いまだにあるんです。

あれ?これって、これでよかったっけ?って迷うこともたくさんある。

勉強して、研究して、
たくさんの症例を見て、
また勉強して、研究して。

自分なりに、普遍的なこととか、真理とかに行き当たったと信じているけど、
それでも、やっぱり、ゆらぎの部分とか、迷いの部分とか、
そこから微妙にはみ出すことに出会って。

そのはみ出しを、はたして、それまで自分が組み立てて来たことの中に、
割り切って組み入れていいのか、
それとも、これは、未知の新しいメソッドの扉を開くべき症例なのかと、

迷ったり、悩んだり、苦しんだりしながら、
海外の論文を読んだり、音楽とは全然関係ない本を読んだりしながら
答えを探して…

それでもね。

ヴォイトレに救いを求めに来る子にとって、知りたいのは真理じゃない。

たった今、どうしたら、高い声、いい声、大きい声が出せるようになるのか、
どうしたら、声を出すたびに苦しい、今の自分を変えられるのか、
どうしたら、ノドを枯らさずに、
どうしたら、ちゃんとピッチにあたるように、
どうしたら明日のコンサートで、気持ちよく歌えるのか。
知りたいのは、それだけです。

だから、どれだけこちらが正論を並べても、
どんなに完璧なメソッドを振りかざしても、

たった一人が救えなかったら、
ヴォイトレなんて、なんの価値もないんです。

お偉い先生だけはなっちゃいかん。
たった一人に寄り添えない人間になっちゃいかん。

がんばっても、がんばっても、力およばず、
救ってあげられなかった子たちを思い、
今苦しんでいる子たちを、どうしたら一分一秒でも早く、
気持ちよく歌えるようにしてあげられるかを思い、
これから出会うであろう、たくさんの悩みを抱えた人たちを思い。。。

あぁ、この道は、なんて果てしないんだろうと、
曇天の夜空を見上げる夜です。

修行だなぁ。。。
修行ですよ。

 

■無料メルマガ『声出していこうっ』。プライベートなお話からマニアックなお話まで、ポップな感じで綴っていきます!(ほぼ)毎週月曜発行!バックナンバーも読めますよ。

 - The プロフェッショナル, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

歌の才能。

はじめてトレーナーのお仕事をしてから、 かれこれ20年。 下は小学生から、上は7 …

関係性がつくれないから上達しない。

ここ数年、芸能事務所や音楽事務所の 新人育成ワークショップを担当させていただく機 …

音楽を「職業」にしないという選択

若い頃から音楽を志して、寝る間も惜しんで練習や創作、 ライブ活動に打ち込んで来た …

「課題曲」って、どうよ?

大学4年になったばかりのこと。 清水の舞台から飛び降りる気持ちで通い始めた歌の学 …

歌が劇的にうまくなる必勝練習法

昨年から育成に携わっていた新人アーティストたちが、先日レコーディングを終えたと、 …

挑戦か?ブランドか?

  従来のイメージを守り続けるか? それとも挑戦するか? アーティスト …

「教える者」のゴール

生まれて初めて「新入生」に会ったときのことを今でもハッキリと覚えています。 &n …

「無神経」も「曖昧」もダメなんです。

「MISUMIってさぁ、お勉強は出来るけど、頭悪いじゃない? あ・・・ごめんね。 …

「プロ」「アマ」という線引きは、 もうそろそろ卒業したい。

「俺なんか、ただのセミアマだからさー」。 高校時代に、 一緒にバンドをやっていた …

音楽家として認められるために大切なこと

昨日は大学の卒業ライブでした。 終了後、旅立つ若者たちに、 「今後活動していくた …