大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「課題曲」は、何を基準に選ぶべきか?

   

学校の授業などの教材として、課題曲を決めなくちゃとなると、
さて、一体全体、何を基準に曲を選んだらいいのか、
頭を悩ませるのは、どんな講師も同じでしょう。

クラシックのように長い歴史のある音楽は、
よく研究されて、技術的な難易度が整理されていますから、
おおまかな基準を参考に、次はこれ、その次はこれ、と選べるものなのだけど、
日々移り変わるポピュラー音楽の世界では、基準も難易度も曖昧です。

なので、ついつい、
1.受講生が好きな曲、得意な曲
2. 講師が得意な、教えやすい曲
3. 誰でも知っていそうな、流行の曲、人気曲
などの基準で課題曲を選びがちになります。

しかし、数ヶ月なり、1年なりと、長期でレッスンをしていく場合、
こんな風に曲ありきでレッスンを進めると、さまざまな問題が出てきます。

1.受講生が好きな曲、得意な曲を選ぶ場合

プライベートレッスンなら、基本、本人が歌いたい曲でいいわけですが、、
グループレッスンで、これをすると、あきらかに満足度に差が出ます。
同じクラスに、激しいアニソンが好きな人と癒し系J-POPが好きな人、洋楽が好きな人などが、混在することが普通だからです。
結局、自分の好きな曲の時は一所懸命練習してきて、
嫌いな曲はテキトーに流す、とレッスン精度にムラができがちです。

2. 講師が得意な、教えやすい曲を選ぶ場合

講師にとっては、自分が好きな曲、得意な曲というのは、
教えていても楽しいですし、こだわりを披露できるのでやりがいもあります。
趣味があう生徒ばかりなら、これ以上いいことはないのですが、
残念ながら、特別講座というのでもない限り、
そういうことは、まずないといっても過言ではありません。

3.誰でも知っていそうな、流行の曲、人気曲

今、流行っている曲から、誰もが学ぶべき普遍的な課題を見出すには、かなりなスキルとセンスが必要です。
ネットなどから拾い集めた知識をどれだけ大仰に語っても、意味がありません。
知識やスキルを積み上げて、一定期間の授業を構築するのは、難しくなります。

では、どうするか?

課題曲の選曲は、曲ありきではなく、ゴール設定からすることが重要です。

例えば、発声の基礎、さまざまなリズム、フレーズのバリエーションなどなど、
学ぶ人たちにとって必要な情報を、どんな順番で、どんな風に組み立てて伝えるか。
1曲1曲、知識とテクニックを構築するように、どんな上達の地図を描くか。
これが明確でないまま、やみくもに曲を選んでも、学ぶ人たちが着実に力をつけてもらうには不十分なのです。

また、1つの曲でなにもかもを伝えようとするのではなく、
それぞれの曲に役割を持たせて、一定の回数や授業期間でゴールに到達できるような、
長期的な目線も大切です。

こうした地図をきちんと描いた上で、
さまざまな曲をバランスよく選び、授業を進めていく。
同時に、学ぶ人たちにも、その意図を確実に伝え、モチベーションを高めていく。

時間とエネルギー、そして、お金をかけて、歌にコミットする人たちに
講師たちがやるべきこと、できることは、まだまだたくさんありそうです。

 

■本気でうまくなりたいと思ったら、迷わず受けて欲しい。
6日間にコミットして、歌に対する自己肯定感を一気にあげてください。
第10期 MTLヴォイス&ヴォーカルトレーニング。11月開講です!

 - ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

「いい声が出ない」には、いつだって理由がある。

歌うというのは、カラダの中と外を繋げる作業。 少しスピリチュアルな言い方をすれば …

「生徒に誉められよう」という想いで歌わない。

ヴォイストレーナーという仕事をはじめた時から、 常に自分に言いきかせていることは …

進化し続けられなければ、退化するか、腐敗するかしかない。

「『すべてを伝えます』って言うから、講座を受けたのに、その数年後にアドバンストが …

「歌がうまい」って、なんなのよっ!?

歌なんか、習うもんじゃない。 ウンザリするほど聞いたことばです。 正直、私もずっ …

『この人、うまいの?』

『この人、うまいの?』 最近は滅多にありませんが、 母と一緒にライブやテレビなど …

「育てる」んじゃない。「育つ」んだ。

「あいつは俺の弟子だったから。あいつを育てたのは俺だよ。」 有名人や、一流の人た …

ゴールは自分自身で選び取る

大学の新年度がはじまりました。 今日から門下の生徒の個人レッスンのスタート。 新 …

「学校なんかいくら通ったって、 人を感動させられる歌なんか歌えるようにならないだろ?」

音楽やりたい、バンドやりたい、と思った瞬間を覚えているでしょうか? お兄ちゃんが …

「完全無欠」を更新する。

「自分の頭の中にあることのすべてを文字化したい」などという、 イカれた考えに捕ら …

そのボイトレで本当にいいんですか?

かつて某大手プロダクションの新人育成を任された時のことです。 レッスンにやってき …