大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

メソッドよりも大切なこと

      2015/05/08

「なんて凡庸なんだろう。。。」

数年前、それまで長い年月をかけて試行錯誤を繰り返し、
開発してきたメソッドをまとめ上げたとき、思わず自分の口から出たことばです。

ボイス&ボーカル・トレーナーという看板を掲げる決意をしたときから、
徹底的に声と歌の研究、そしてメソッドの開発をしてきました。

鉄のノドと呼ばれる自分の声、
さまざまなお仕事をこなしてきた自身のボーカルテクニックや身体能力などを、
あらためて、言語化することからはじめ、
国内外のボイトレ関連の本を手当たり次第に読み、
さらには、解剖学、運動生理学、呼吸法などの研究にまでのめり込みました。
健康関係の本や、スピリチュアルな本もたくさん読みました。

そうやって、生徒やクライアントさんたちが一日でも早く、
自在に声や歌を通して、自身を表現できるようにと、
試行錯誤を繰り返した来たのです。

レッスンを通して、多くのボーカリストを育ててきました。
一線で活躍するプロフェッショナルのお手伝いもしてきました。

自分なりに、結果の出せるメソッドを開発できた。

そう思い、一気にメソッドのまとめ作業をし、眺めてみてみたとき、
特別だと思ってきた自分のメソッドが、なんとも凡庸に思えてしまったのです。

そして、気づきました。

人類が言葉を話しはじめて、数十万年。
歌いはじめたのは、いつ頃か、おそらくは言語よりも歌の方が早かったかも。
パフォーミングアーツが最初にはじまったのは、一体どれほど昔のことか。。
14376168_s

そんな長い長い歴史の中で、声や歌、人間のカラダは研究し尽くされてきたはず。

世界中のあらゆるアーティストや、トレーナー、ドクターが研究し、
試行錯誤を繰り返して、さまざまなトレーニング・メソッドを生みだしてきた。
また、歴史に名を残すエポックメイキングなトレーナーや研究者たちが、
それらを深め、高めてきた。

そうして生まれた普遍的なメソッドは、
人間のカラダがいきなり進化でもしない限り、大きく変わることはないのだ、と。

そして、こうも考えました。

普遍的なメソッドがあるのに、
結果が出せていないボーカリストやトレーナーがあまりにも多いのは、
別の理由があるからだと。

それは・・・

1.多くのトレーナーが、メソッドを体系的に知らない。または理解していない。

2. トレーニング・メソッドそのものよりも、
その根底に流れているロジックの方が、より重要である。

3. トレーナーには、ロジックをきちんと言語化、視覚化できる力が不可欠である。

4. 声と体のロジックとトレーニング・メソッドを体系的に表した、
わかりやすい本があまりに少ない。

そして、最も大切と思われたのは、

5. 生徒に伝えるべきなのは、メソッドではなく、
自分自身の声、そして、自分自身と向き合う姿勢。生きることの態度である。
そう思い至ったとき、声や、そのロジックを語る重要性、
そして、ロジックとトレーニング・メソッドと体系化した、
わかりやすい本をつくる必要性をあらためて感じたのです。

同時に、ボーカリストであること、ボイストレーナーであること、
そんな自身の生き方を伝えてきたことが、
結果的に多くの生徒たちの成長を助けてきたと自負し、
これまで語ってきたこと、これから語りたいことを、
書籍やブログを通して伝えて行こうと決意しました。

声を語る。歌を語る。
そんな自分のプロフェッショナルな部分を掘り下げるほどに、
さまざまな職業につく、さまざまな状況のひとたちが、
自分に向けられたメッセージのように受け取ってくださり、
レスポンスをくださることを、驚きながらも感謝しています。

今日もがんばります。

 - ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。

人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。   小 …

知識でも、思考でもない。メソッドは創造するものなんだなぁ。

どんなに知識を詰め込んでも、 あーでもない、こーでもないと考えても、 クリエイテ …

「ダメ出し」こそが、プロの技を試される仕事なのだ

他人にダメ出しをする人には、 自分のためにダメ出しをする人と、 相手のためにダメ …

「教える者」であるということ

学生時代。 先生が生徒をジャッジするより、 生徒が先生をジャッジすることの方が圧 …

自分の人生の価値を過小評価しない!

人にものを教える仕事がしたいと思ったら、 真っ先にすべきは、自分のプロフィールを …

いい歌は左脳を麻痺させる。

ものすごくうまいのに、ものすごく退屈な歌、というのを、 たくさんたくさん聞いてき …

「課題曲」は、何を基準に選ぶべきか?

学校の授業などの教材として、課題曲を決めなくちゃとなると、 さて、一体全体、何を …

「歌がうまい」って、なんなのよっ!?

歌なんか、習うもんじゃない。 ウンザリするほど聞いたことばです。 正直、私もずっ …

『この人、うまいの?』

『この人、うまいの?』 最近は滅多にありませんが、 母と一緒にライブやテレビなど …

勇気を出して、「酷いことを言う人」になる。

言ってあげた方がその人のためとわかっているけれど、 言えば必ず、相手はショックを …