大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「それは教えている自分が無能だからではないのか?」

   

人にものを教えていると、自分の発することばのすべてが、そのまま自分自身への問いとなって、胸に突き刺さります。
この問いに答えられないことは、すなわち、自分自身への不信感となります。

自分に不信感を抱いたまま、人にものを教えようとすることほど、恐ろしいことはありません。
受け手にとっては、その刹那、与えられる情報がすべてだからです。
いや、少なくとも、教える側は、そういう覚悟でレッスンに臨まなくてはいけない。


 

レッスンは一期一会

人間は間違いをおかすもの。
間違いをおかすことを怖れていたら、なにもできない。これは当たり前です。
だからといって、間違えることは当たり前なんだと、開き直ってはいけない。

レッスンは一期一会です。
間違いを訂正するチャンスはこないかもしれない。
もしかしたら、そのレッスン生とはもう二度と会えないかもしれない。
自分の犯すミスが、その人の歌の人生を決めてしまうかもしれない。

大袈裟に聞こえるかもかもしれないけれど、痛いほど胸に刻んできた事実です。

 

これは根拠のある情報か?

これは万人に共通する真理か?
果たして100% 正解か?最新の情報か?
自分の体感や思い込みじゃないのか?
情報のリソースはどこだったか?
ちゃんと裏付けを取ったか?
エビデンスのない二次情報を信じ込んでいるのじゃないのか?

この問いに胸を張って答えを出せない状態で、どうして人にものを教えられるのか?

不確かな情報をただ右から左に流すだけなら、誰が教えても同じです。
二次情報なら、インターネットで洪水のように流れている。

自分が確信を持って伝えられる、聞く価値のある情報だけを伝えられないなら、トレーナーが存在する意味はありません。
確信が持てないなら、持てるまで徹底的にリサーチと研究を積まなくちゃいかんのです。

 

これは果たして必要な情報か?

自らの持つ情報量が増えるほどに、次なる疑問がやってきます。

この情報は、この人にとって果たして必要か?
これを伝える意味はなにか?
この情報を得ることで、この人の何が変わるのか?

メカニズム・オタク=単なる研究者のようになってしまうと、
情報を伝えること自体の価値を過大評価してしまいがちです。
知っていることを、みんなしゃべりたくなる。
聞く人を知識量で圧倒し、感動させようとしてしまう。

しかし、目的は、知識を伝えることではない。
レッスン生が目指すゴールへ一瞬でも早く、連れていってあげること。
だから、最善のタイミングで、必要な情報だけを、取捨選択して伝えなければいけない。

伝えたいことではなく、伝えないことを見極める力。
トレーナーの実力が試されることのひとつです。

 

果たして自分は、これを完璧にできるのか?

歌を教えるということは、単に情報を伝えることではありません。
言語かできない情報は、耳と目から受け取ってもらう。
だから、完璧なお手本を見せられることが最大の理想です。

教えようとしていることを、果たして自分は完璧にできるのか?
これこそが、繰り返し訪れる、最大の疑問です。

できないことは語れません。
語るからにはできなくちゃいけない。

自分すら上達させられないトレーナーが人のことを上達させられるわけはない。

だから、レッスン生の前で歌う時には、いつも少し震えます。
レッスンはライブ以上に真剣勝負なのです。

一方、これは、自己承認欲求が働かないように、自らを戒める場面でもあります。
トレーナーの仕事はレッスン生が求めるゴールに連れて行くためのサポート。

彼らの求めることはなにか?
そのために、今必要なことはなにか?
最少の努力で最大の結果を出すために、今できることはなにか?

何度でも自らに問うべきことばです。

 

できないのは、教える自分が実力不足だからではないのか?

レッスン生も、こちらも、
どんなにがんばっても、なかなか結果が出ない時があります。

ここで、レッスン生以上に、苛立ってしまうことも、いや、やはり人間だから、あります。
結果を期待されている人を教えていると、特に苛立ちが募ります。

本当に練習してるのか?
やる気はあるのか?
なんでできないんだ?

…ついつい、疑問をぶつけてしまいがちですが、

こんな時は、まず自分の頭に水をぶっかけるかのように、
こんなことばを自分に浴びせます。

「それは教えているお前が無能だからだ」

 

なぜ続けられる練習方法を提案できないのか?
なぜやる気を引き出せないのか?
どうやったらわかるようになるのか?
できないのは教え方が悪いからじゃないのか?

疑問は自分にこそ向けられるべきなのです。

 

さらには、

自分は、なぜこれをできるのか。
なぜこれがわかるのか。
どうやってできるようになったのか。
どんな感覚でやっているのか。

…という感覚的問題まで掘り下げていかないと、
いつまでも出口を見つけることはできません。

それは、教える人間の力不足です。
少なくとも、私はそう考えています。

 

「手癖」や「慣れ」で教えてないか?

たくさんの失敗を重ねながら、
いくつもの後悔を自分なりに消化しながら、
たくさんの人を教えてきました。

キャリアを重ねるほどに、新たな疑問が浮かんできます。

「慣れ」や「手癖」で教えていないか?
頭が凝り固まって、自分の「正しい」にしがみついていないか?
情報はアップデートされているか?
エネルギー量が落ちてないか?
自分の歌や情報は劣化していないか?
素直に、人のことばに耳を傾けているか?

 


 

限りなく降ってくる自分自身に対する質問に、いつもいつも答えられるわけではありません。
できないことも、顔を背けることも、正直、数え切れないほどあります。

それでも、なんでも答えを探し続ける。

そんなエネルギーがなくなるときが、トレーナーとしてのステージを降りるときかもしれません。

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 - ヴォイストレーナーという仕事

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