弟子と生徒とクライアント
「あぁ、○○ね。あいつはオレの舎弟だから。」
「ありゃオレの弟子だよ。」
ミュージシャンの名前を聞くと、
ことあるごとに、そんな風に言う人がいます。
実際に、その人が○○さんと一緒にいるところに居合わせた時、
意外に丁寧に「○○くん」と呼んでいて、
あれもパワーゲームの一種なのだな、と感じたものです。
こんなこともありました。
かつて誰かのトラとして、
1~2度一緒に演ったことがあるプレイヤーがいました。
キャリア的にもずいぶん後輩に当たる彼は、
とても腰が低くて、私に敬意を持って接してくれていました。
ところが、彼が他の現場で、
彼よりも年下のプレイヤーたちに、
「MISUMIちゃんなら、よく一緒にやってたよ。」
と言い回っていると聞いて、びっくりしました。
人の振り見て我が振り直せ。
自分を大きく見せるために、
思わず口にしてしまう、こういう発言、
私にもきっと、あるあるある。。。
まさか本人の耳に入るとは思っていなかったでしょうが、
業界はウンザリするくらい狭いもの。
うかつなことは言ってはいけませんね。
さて。
ここからが今日の本題。
自分が指導した相手との関係性を、
どういうことばで表すのが適切なのか。
先生業をやっている人が思わずつかう、
「弟子」ということばの使われ方に、
違和感を感じることがよくあります。
「生徒」と「弟子」は違うのではないか。
さらには「生徒」と「クライアント」も違うのではないか。
人一倍ことばに敏感なタイプの私。
自分なりに、定義づけをしてみました。
そもそも「生徒」というのは、
物理的にこちらが先生、あちらが生徒というように、
システム上で決められた関係性。
生徒は先生を選べない場合も多々あります。
選択肢が少なくて、仕方なくその先生につく場合もあります。
学校などの場合は、
講師は学校に雇われているパート、
または契約社員のようなものですから、
「ウチの生徒」というのもおかしい。
あくまでも、「学校の生徒」なのです。
ちなみに、セミナーなどで、
講師を選んで学びに来てくれる方も、
時々、「生徒さん」と呼ぶことがありますが、
正しくは「受講生の方」。お客さんですね。
レッスンを受けに来るアーティストたちも、
生徒には変わりありませんが、
レッスン料を払ってくれている方たちは「クライアント」。
自分でお金を払ってレッスンを受けに来てくれる人は、
「クライアント」であり「生徒」、
こちらも、平たく言えば、「お客さん」なわけです。
「弟子」と呼んでいいのは、
ヴォーカリストとしての芸風や、
ヴォイストレーナーとしての仕事ぶり、
人間的な生き方などを学びたくてやってきてくれる相手だけ。
かつて、弟子と呼ばれる人は、
師匠の元で日夜修行に励む人のことでした。
なにも教えてくれず、ただ「盗め」と言う、
芸人さんたちもたくさんいたようです。
先生は「生徒に対して、なにかを教える」というのが前提です。
こうした定義は、もちろん、主観によるもの。
お互いが一つの関係性だけとは限りませんし、
もちろん、なんと呼んでも自由でしょう。
でもね。
「お客さん」を「弟子」と呼び間違えたり、
「学校の生徒」を「自分の生徒」とみなしたりするのは、
やっぱり、私は違和感を覚えます。
ついついやってしまいがちな、ちっちゃいパワーゲーム。
違和感を覚えることは、
やっぱりどっか間違っているんですよね。

◆自宅で繰り返し、何度でも。ヴォイス&ヴォーカルのすべてが学べる【MTL Online Lesson12 10月生受付終了間近。】
◆コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。限定公開のレッスン映像もごらんいただけます。購読はこちらから。
関連記事
-
-
「自分が嫌い」の爆発的エネルギー
思うように行かないことは、いつだってあります。 自分が望むような方向に人生が流れ …
-
-
時間には密度があるんだ
今日のレッスンで、 「10000時間の法則」の話をしました。 じっと聞いていた彼 …
-
-
「わかることばで教えてください!」
音楽業界に長くいるほど、 どこまでが専門用語で、どこからが一般のことばか、 これ …
-
-
幸せと。寂しさと。そして嫉妬もちょびっと。
自分の仕事の評価を何で計るか? 稼いでいる金額? メディアで取り上げられた数? …
-
-
ビジネスマンのためのヴォイストレーニング
ただのミュージシャンだった私が突如ミッションに目覚め、 起業セミナーや出版セミナ …
-
-
「学校なんかいくら通ったって、 人を感動させられる歌なんか歌えるようにならないだろ?」
音楽やりたい、バンドやりたい、と思った瞬間を覚えているでしょうか? お兄ちゃんが …
-
-
MTLの”アーティストレッスン”って、何が違うんですか?
わかりにくいと評判のMTLのレッスンをご紹介するシリーズ第2回。 まずはMTLの …
-
-
「自分ばかりがちっともうまくならない」~Singer’s Tips #2~
練習をやってもやっても、ちっともうまくない。 まわりのみんなは、どんどん上達する …
-
-
そんな情報、いりますか?
私が最も嫌いな人種に、 「いらんことをいうヤツ」というのがいます。 本人にはどう …
-
-
プロを目指す人のためのボイス&ボーカルトレーナーという仕事
プロを目指す人のボイストレーナー、ボーカルトレーナーという仕事は、 山岳ガイドの …
- PREV
- 一瞬一瞬を大切に、大切に生きる。
- NEXT
- 15分間の名声(15 minutes of fame)