大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

弟子と生徒とクライアント

   

「あぁ、○○ね。あいつはオレの舎弟だから。」
「ありゃオレの弟子だよ。」

ミュージシャンの名前を聞くと、
ことあるごとに、そんな風に言う人がいます。

実際に、その人が○○さんと一緒にいるところに居合わせた時、
意外に丁寧に「○○くん」と呼んでいて、
あれもパワーゲームの一種なのだな、と感じたものです。

 

こんなこともありました。

かつて誰かのトラとして、
1~2度一緒に演ったことがあるプレイヤーがいました。
 
キャリア的にもずいぶん後輩に当たる彼は、
とても腰が低くて、私に敬意を持って接してくれていました。
 
ところが、彼が他の現場で、
彼よりも年下のプレイヤーたちに、
「MISUMIちゃんなら、よく一緒にやってたよ。」
と言い回っていると聞いて、びっくりしました。
 
人の振り見て我が振り直せ。
 
自分を大きく見せるために、
思わず口にしてしまう、こういう発言、
私にもきっと、あるあるある。。。
 
まさか本人の耳に入るとは思っていなかったでしょうが、
業界はウンザリするくらい狭いもの。
うかつなことは言ってはいけませんね。

 

さて。
ここからが今日の本題。

 

自分が指導した相手との関係性を、
どういうことばで表すのが適切なのか。
 
先生業をやっている人が思わずつかう、
「弟子」ということばの使われ方に、
違和感を感じることがよくあります。

 

「生徒」と「弟子」は違うのではないか。
 
さらには「生徒」と「クライアント」も違うのではないか。
 
人一倍ことばに敏感なタイプの私。
自分なりに、定義づけをしてみました。

 

そもそも「生徒」というのは、
物理的にこちらが先生、あちらが生徒というように、
システム上で決められた関係性。
 
生徒は先生を選べない場合も多々あります。
選択肢が少なくて、仕方なくその先生につく場合もあります。
 
学校などの場合は、
講師は学校に雇われているパート、
または契約社員のようなものですから、
「ウチの生徒」というのもおかしい。
 
あくまでも、「学校の生徒」なのです。
 
ちなみに、セミナーなどで、
講師を選んで学びに来てくれる方も、
時々、「生徒さん」と呼ぶことがありますが、
正しくは「受講生の方」。お客さんですね。
 
レッスンを受けに来るアーティストたちも、
生徒には変わりありませんが、
レッスン料を払ってくれている方たちは「クライアント」。
自分でお金を払ってレッスンを受けに来てくれる人は、
「クライアント」であり「生徒」、
こちらも、平たく言えば、「お客さん」なわけです。

 

「弟子」と呼んでいいのは、
ヴォーカリストとしての芸風や、
ヴォイストレーナーとしての仕事ぶり、
人間的な生き方などを学びたくてやってきてくれる相手だけ。
 
かつて、弟子と呼ばれる人は、
師匠の元で日夜修行に励む人のことでした。
なにも教えてくれず、ただ「盗め」と言う、
芸人さんたちもたくさんいたようです。
 
先生は「生徒に対して、なにかを教える」というのが前提です。

 

こうした定義は、もちろん、主観によるもの。
お互いが一つの関係性だけとは限りませんし、
もちろん、なんと呼んでも自由でしょう。

 

 

でもね。
「お客さん」を「弟子」と呼び間違えたり、
「学校の生徒」を「自分の生徒」とみなしたりするのは、
やっぱり、私は違和感を覚えます。
 
ついついやってしまいがちな、ちっちゃいパワーゲーム。

違和感を覚えることは、
やっぱりどっか間違っているんですよね。

◆自宅で繰り返し、何度でも。ヴォイス&ヴォーカルのすべてが学べる【MTL Online Lesson12 10月生受付終了間近。
◆コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。限定公開のレッスン映像もごらんいただけます。購読はこちらから。

 

 - ある日のレッスンから, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

「興味を持ってもらう」 ただそれだけで、 人はどれほどのエネルギーを受け取れるのか。

自主ロックダウンも間もなく40日。 少し前から、インターネットの紹介サービスを利 …

「あ、あれ、まだ書いてない」

「MISUMIさんのブログって、声や歌の話、ほとんどないですよね。」 そんな風に …

「そこに愛はあるか?」

同じ音楽家の先輩として、 生徒たちを指導しながら、自分自身の過去を追体験すること …

「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。

人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。   小 …

どんなに「ふり」をしても、オーディエンスは一瞬で見破るのです。

「わからないことを、わかっているかのように、 できないことを、できるかのように語 …

「育てる」んじゃない。「育つ」んだ。

「あいつは俺の弟子だったから。あいつを育てたのは俺だよ。」 有名人や、一流の人た …

自分がヘタに聞こえるのは、上達してきた証拠

週1回90分レッスンに通いながら、日々コツコツと自主トレもできる人なら、 およそ …

「中上級の壁」を越えるための5つのポイント

今日は午前中から、外資系企業でバリバリと働く才媛かつ、美しき女性シンガーAさん、 …

お前の主観はいらんのじゃ。

人が音楽や歌をジャッジするポイントは、 大きく分けて3つあります。 1つめは「正 …

国語力、お願いします!

歌を教える仕事をしていて、 最もフラストレーションを感じるのは、 生徒がなかなか …