大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

何がやりたいかわかんない人に教えるのが一番ムツカシイ。

   

たいがいの無理難題は受けて立つタイプですが、
レッスンを担当することになって、なにが困るって、
受ける本人が、何のためにレッスンを受けるのか、
わかっていないときです。

事務所やレコード会社などから依頼を受ける場合は、
その点、本人が明確じゃなくても、
スタッフさんと綿密な打ち合わせが可能ですから、
迷うことはありません。

個人でMTLの門を叩いてくださる方たちも、
まぁ、「虎の穴」と呼ばれるようなところに、
自ら身を投じるわけですから、
それなりの覚悟と目的意識を持っていらっしゃる。

本当に難しいのは、
専門学校や大学で出会う学生たちでした。

「なぜ」「なんのために」が、
明確でない若者が実に多いのです。

ソングライティングも自分でやる、
ソロ・アーティストになりたいのか、
誰かに曲を提供してもらって歌う、シンガーになりたいのか、
スタジオで通用するヴォーカリストになりたいのか、

バンドをやりたいのか、
打ち込みで制作したいのか、
ライブをやりたいのか、
ネットでやっていきたいのか、
デビューを目指してオーディションを受けたいのか、

ヴォイストレーナーとして独立したいのか、
音楽教室で教える、歌の先生になりたいのか、
歌、音楽は「勉強」として取り組んで、
卒業後は就職なり、結婚なりしたいのか・・・

こちらとしては、望む場所に連れて行ってあげたい。
いや、連れて行ってあげることは無理だとしても、
少なくとも、
こっちに歩いて行けばいいんだよと、
道を指し示して、できれば灯りを点してあげたい。

しかし、どこに行きたいのかわからない人の、
道案内はできません。

 

1年目、徹底的に基礎をやったら、
2年目以降のレッスンでは、
そんなゴールの確認を、折に触れ、していました。

最初はあれもこれもと欲張ってもかまわない。
変化するのも当たり前。
でっかい風呂敷広げて取り組みはじめ、
やがて、少しずつ現実的な方向に軌道修正をしていくのが、
学生というもの。

その都度、レッスンプランを修正したり、
具体的なアドバイスをしていったりと、
二人三脚で進められたレッスンは、
それなりにおたがいの満足度高く、
終えられた気がします。

ところが、「どこに行きたい?」「何をしたい?」という、
質問をされることに慣れていない人がたくさんいます。
「どんな歌を歌いたい?」という質問さえも、
苦痛と感じる人がいるようです。

そんな質問ばっかりしてないで、
ただ教えてくれればいいのよ。

・・・という態度をされたこともあって、
逆に面食らいました。

一方的に与えられることが当たり前。
自分の意志はそこに介入させたくないのです。

こんな「思考停止派」のレッスンは、
言うことはデカいのに、
蓋を開けてみたらなんにも努力ができない、
「なんちゃって派」のレッスン以上に、
途方に暮れたもの。

そのたびに、音楽に夢中で、
ただ単位を取るためだけに大学の授業に出席していた、
学生時代の自分自身を思い、

そんな出来の悪い学生たちに、
「とにかく目的意識がなければいかんのだ!」と、
何かというとお説教をしてくれた、
今は亡き鷹取先生を思い、
深く深く反省するとともに、

彼らにとっての音楽は、
単なる「科目」ひとつなのだと自分に言いきかせたものです。

学ぶのは自分自身。
なぜ、何のために学ぶのか、
明確でない学習は、結局、時間の無駄になりかねない。

教える側が学ぶ側の力を引き出すだけでは、
不十分なのです。
学ぶ側の姿勢が、
教える側のやる気とポテンシャルを引き出すのです。

心からやりたいこと以外に時間を使えるほど、
人生は長くない。

目的意識を研ぎ澄まして、
学びの価値を最大化して行きたいものです。

RadioTalkをはじめました。23時前後に配信をしています。
まだまだひっそりやっている感じなので、ご質問やご感想も励みになります!

 

 - B面Blog, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

分解して聞く。分解して練習する。~Singer’s Tips#27~

「片手ずつ練習しなさい。 右手と左手、一緒に弾いていたら、 間違っていることに気 …

「自分だったらどうか」という視点で考える

ボーカルやボイトレを教えているアーティスト、その卵たち、 そして、音大の学生たち …

ルーティンワークで「微差」をつかまえる。

鰻屋を営んでいた母方の祖父は、 生前、お昼ごはんに、 毎日お店の鰻重を食べていた …

「違和感」を放置しない。

私たちの脳は毎秒1000万ビット以上の情報を処理できると、 神田昌典さんが書いて …

音なき音楽をキャッチする

歌や音楽を学びたい、極めたいと思うとき、 ついつい、音楽のことばかりを考え、 ま …

「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。

人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。   小 …

疑問や不安を放置しない!

学習の過程はいつも同じです。   1.気づく。 2.原因を探る。 3. …

生徒たちとの距離感。

「生徒たちとの距離感」は、人にものを教えるものにとって永遠のテーマとも言えるでし …

解像度を上げろ!

歌で伸び悩んでいる人や、思ったように評判が上がらない人に、真っ先に疑って欲しいの …

何ごとにも終わりはくる。絶対の絶対に、くる。

好きなことしかやりたくない。 こうと決めたら即断即決即行。 私自身は、いわゆる「 …