大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

スーパーファルセット(すんごい高い声)出したい?

   

スーパーファルセット、
ホイッスルヴォイスなどと聞いて、ピンとくるでしょうか?

わんこがお鼻を鳴らすみたいな、
「めっちゃ高い声」のことをこう呼びます。

ポピュラーなら、
マライア・キャリーや、ミーシャのように、
技術力の高い人たちが、
曲の美味しいところで、ポンと出して、
さらに「おぉ〜、うっめぇ〜」と賞賛を欲しいままにする、
いわば飛び道具のような声。

クラシックの世界だと、
モーツアルトの歌曲・魔笛の中で歌われる、
『夜の女王のアリア』に出てくるような声ですね。

通常の人が出すファルセットの1オクターブ上、
というイメージです。

高すぎて、表現力を駆使したり、
自由自在なフレーズを歌えたりする音域ではありませんし、
聞いている人は、「すっげ〜」と思わずのけぞりますが、
その声をずっと聞いていたいかというと微妙。

どれだけ超絶技巧の人でも、
正確に出すのは骨が折れる声のようで、
平歌部分には、まず使われません。

でもね。出したいんですよね。

なぜ出したいかというと、
まぁ、「そこに山があるから」。

実は私、ほんっとに1年くらい前まで、
この声に興味を持ったこともなければ、
出したいと思ったこともありませんでした。

だってさ。
スーパーファルセットって、なんか、ロックじゃない。

だからといって、完コピに心酔した、
ホイットニーやチャカやアレサのようなディーヴァたちだって、
私の知る範囲では、
やっているのを聞いたことは一度もない。

マライア・キャリーが彗星のごとく登場するまで、
聞いたこともない声でした。
そして、マライアはま〜ったく趣味じゃありませんでした。

だから、ふぅ〜ん、と聞き流していたんです。

しかし、確か、1年くらい前のことになりますか。

「高い声は理論上、誰だって、どこまでだって、出せる」
ということを何かに書いていて、
ふと頭に、「ホントかー?」という疑問がよぎったのです。

言うは易し。
でも、自分が出せなきゃ説得力はない。
それで、出そうとしてみたら、
あら、これ、め〜っちゃムツカシイ。

相当ヴォイトレをしていた時期でも、
ファルセットのトップは、
上のDかEくらいでしたし、
地声の音域が広がるほどに、
ファルセットを使わなくなったこともあって、
(地声がその下のBくらいまで出るので)

そもそも、高音ファルセットを出そうとすると、
妙にディストーションがかかって、
いわゆる、マルチフォニックみたいなことになる。

そうやって、1日中ず〜っといろんな声を出していたら、
声がカスッと枯れてしまいました。

・・・おぉ、声帯様ごめんなさい。

慌てて、歌うのをやめた翌日、
「イヌの声帯様って、どうなってるんだっけ」と、
ルーシーの鳴き真似をしてみたら、
いきなりポンと、目的の上のGの音が出ました。

へー。
声ってオモシロいなぁ、と、
しばらくハマって練習したんですが、
まぁ、前述のように、自分の持ち歌では全く使わないので、
そんまま忘れていたのでした。

ところが。
先日のJ-POPセミナーの受講生の方から、
ミーシャの『つつみこむように』のイントロの、ホイッスルヴォイスを出したい、
というお題をいただき、
生まれて初めて、
「出さなくちゃ」というシーンに追い込まれまして。

結論から言うと、
蚊の鳴くような声ですし、
まだ的中率は低いものの、
なんとか出なくはない。

もちろん、まったく使い物になりませんが、
それでも、
年齢関係なく、練習次第で、
(使いものになるかならないかは別として)
「高い声は誰でも出せる」と言っても、
とりあえず、ぎりぎり、叱られなくてすみそうです。

ご興味のある人は、ぜひ、練習してみてください。
(ただし、翌日に本番があるような人にはオススメしません。)

ちなみに、いつも出している声の延長線上にある感覚ではありません。
力業で出すのでも、
無理矢理引っ張り上げるのでもありません。

最初は
とにかく目的の音をイメージして、
「鼻から声を出す」ような、
繊細な感覚です。

この、細い糸のような感覚が、
確かなものになってくる頃には、
もう少し音量が上がってくるのではないでしょうかしらん。

ちなみに、うちの弟子のひとりは、
練習し過ぎて偏頭痛になったようです(笑)

せっかくだから、私もこのまま、
夜の女王のアリアにでも挑戦してみよっかな・・。

ちゃんと歌えるようになったら、
きっと得意になって音源でもUpすると思うので、
Upされなかったら、
「あぁ、ダメだったのね」と思ってください。(笑)

RadioTalkをはじめました。23時前後に配信をしています。
まだまだひっそりやっている感じなので、ご質問やご感想も励みになります!

 - B面Blog, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 声のはなし

  関連記事

知識でも、思考でもない。メソッドは創造するものなんだなぁ。

どんなに知識を詰め込んでも、 あーでもない、こーでもないと考えても、 クリエイテ …

「完璧なパフォーマンス」ができても、「蚊の鳴くような声」じゃ、やっぱりダメなのよね。

ずいぶん前のことになります。 あの子、歌がめっちゃ上手いんですよ〜。 素晴らしい …

上達するためのプロセス

高い声を出したい。 もっと正確にピッチやリズムを刻みたい。 速いフレーズを的確に …

「興味を持ってもらう」 ただそれだけで、 人はどれほどのエネルギーを受け取れるのか。

自主ロックダウンも間もなく40日。 少し前から、インターネットの紹介サービスを利 …

「カッコいいもの」と、それ以外

音楽学校などで、 「この曲を練習してきて」と課題曲を渡すと、 「この通り歌わなく …

誤解だらけの「ロック声」。そのシャウトでは、危険です。

ハスキーで、ひずんだ感じの、 いわゆる「ロック声」には、いろいろな誤解があります …

本気でうまくなりたいなら、まず、黙って聴く。~Singer’s Tips #20~

シンガーを志しているという人に、 どんな練習をしているのかと聞くと、 多くの人が …

何がやりたいかわかんない人に教えるのが一番ムツカシイ。

たいがいの無理難題は受けて立つタイプですが、 レッスンを担当することになって、な …

「宝物」と呼べる情報、いくつ持っていますか?

「この写真は19〇×年の△△コンサートのやつだね。 持ってるギターが○○で、ピッ …

誰に話しても「ウソぉ〜」と言われるOnline映像制作秘話②

まだセミアマぐらいだった頃、 映像系音楽プロデューサーの アシスタントをしていま …