よどみなく、 迷いなく、 明確に。
「先生」と呼ばれる立場になって、
しみじみ、「先生」というもののあり方を考えるようになりました。
私は、「先生」とは、道を志すものの、
道しるべのような存在であると考えています。
もちろん、一定期間、伴走する場合もあるでしょう。
中には、人生の折りに触れ、必要としてくれる生徒もいるでしょう。
しかし、大多数の「教え子たち」にとって、
「先生」とは、その刹那、
自分にとって必要な知恵や考え方を授けてくれるにすぎない存在。
それぞれが人生を歩んで行くうちに、
やがて、そんな道しるべは、遠く、下の方に霞んで見える。
過去の記憶の中に埋もれてしまうことさえある。
私たちにとっても、過去に出会ってきた多くの「先生」が、
そんな存在であったはず。あるはず。
だからこそ、私たちにできること、
私たちがすべきことは、
今、彼らにとって最善と、
少なくとも自分が信じられることだけを、
選りすぐって、
よどみなく、
迷いなく、
明確に、
誠心誠意、
伝えていくこと。
それだけなのですね。
自信は必要です。
ある程度の自負もあっていい。
けれどもそこに、
おごりがあってはならない。
教えを受けに来る人たちを、
見下したり、
見くびったり、
軽んじたりすることは、
絶対にあってはならない。
尊大に振る舞うほど、
傲慢になるほど、
押しつけがましくするほど、
「先生」というマスクの裏に隠された、
弱さや、
自己嫌悪や、
フラストレーションが透けて見える。
知識をひけらかしたり、
勲章を並べ立てたり、
技術を見せびらかしたりするほど、
不安の向こうに、
「先生」のいやらしい素顔が見える。
そんな、安っぽい、
当てにならない道しるべに、
誰が自らの運命をゆだねるでしょう?
「先生」という役目は、人にいただくもの。
それは、役割のひとつであって、
自らのアイデンティティではない。
逆に言えば、自分自身のアイデンティテイを、
きちんと確立できたもの、
極められたものだけが、
真の「先生」という存在になれるのかもしれません。
長い道のりを歩いています。
教え子たちの行く道の傍らに立つ道しるべ。
そんな名もない存在だからこそ、
いっそうの責任を感じ、謙虚に精進するのみです。

コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』購読はこちらから。
関連記事
-
-
「育てる」んじゃない。「育つ」んだ。
「あいつは俺の弟子だったから。あいつを育てたのは俺だよ。」 有名人や、一流の人た …
-
-
やっぱ、最後はエネルギー。
歌の指導をしていく中で、 心がけているのが、 感覚的な説明に終始したり、 精神論 …
-
-
「ダメ出し」こそが、プロの技を試される仕事なのだ
他人にダメ出しをする人には、 自分のためにダメ出しをする人と、 相手のためにダメ …
-
-
「5才のこどもにもわかるように説明しろ!」
学生時代、授業のためにと、 さまざまな本を購入するように言われました。 難しい名 …
-
-
オーディションで、勝ち残る
アーティストやその卵たちのレッスンでは、折に触れ、ここ一番の緊張感に包まれる時期 …
-
-
知識でも、思考でもない。メソッドは創造するものなんだなぁ。
どんなに知識を詰め込んでも、 あーでもない、こーでもないと考えても、 クリエイテ …
-
-
個人レッスン?グループレッスン?メリットと選び方
実によくされる質問のひとつに、 「個人レッスンとグループレッスンっだったら、やっ …
-
-
「練習」とは「工夫すること」
楽器や歌を習得したい。上達したい。 しかし、実際、何からはじめたら …
-
-
歌っている自分を直視できない?
歌っているところを動画に撮る。 こんな宿題を出すことが多々あります。 自分を客観 …
-
-
ティーンエイジャーという名の憂鬱
プライベートレッスンでは、事務所さんやレコード会社さんから、活躍中のアーティスト …
- PREV
- 「無理」って言うな!
- NEXT
- ネックの曲がったギター vs. 姿勢の悪いヴォーカリスト
