大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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ボイストレーナーvs.ボーカルトレーナー

      2015/12/20

「ボイストレーナーと、ボーカルトレーナーって、何が違うんですか?」

今日は、時々、質問を受ける、
ボイストレーニングとボーカルトレーニングの違いなどについて、
私なりの見解を書きます。

まず、ボイストレーニングには、大きく分けて、
話すためのトレーニングと歌うためのトレーニングの2種類があります。

いわゆる、話すためのボイストレーニング、
スピーチのためのトレーニングは、プレゼンや会議、講演などの目的で、
ボイストレーニングを受けたいというビジネスマンが対象。
レッスン内容に、話し方のトレーニングなどが含まれている場合が多いようです。

トレーニングにあたるトレーナーは、
自身がセミナーや講演会などで声を鍛えたという講師の方や、
元アナウンサー、ラジオのパーソナリティーなどが中心です。
中には、音大を出ているという声のエキスパートもいます。

トレーニング内容は、トレーナーによってまちまちで、
挨拶など、簡単なことばで発声の練習をする方もいれば、
ストレッチが中心という人もいます。
歌のトレーニングを取り入れている人もいるようですが、
もちろん、目的が、「歌」ではありませんから、
音域を広げるトレーニングや音程をしっかり取る練習などはありません。

一方、歌のトレーニングには、
ボイストレーニングと、ボーカルトレーニングがあります。
かぶっているところも多いので、まるっとボイトレ、としている場合もありますが、
私は、ボイストレーニングと、ボーカルトレーニングとは、
分けて考えるべきだと思っています。

歌のボイストレーニングは、楽器としての声=発声を整え、
歌の基礎をつくってゆくための指導。

ボーカルトレーニングは、歌い方の基礎力を鍛え、
さらに曲などのレパートリーの演奏へと発展させてゆく指導。
基礎力を養うという部分は一緒なのですが、そこから先は大きく違うのです。

ボーカルトレーニングは、
ある程度、歌のキャリアのある人にしか教えられません。
幅広いキャリアがあって、さらにたくさんのケーススタディを積んで、
はじめて、ボーカルトレーナーといえる。
試合で活躍したことのないコーチは、フィールドでの戦い方は教えられない。
これは当たり前のことです。

ボーカルを習いたいなら、トレーナーの経歴を見極めることは必要不可欠です。
ポップスが歌えない人に、ポップスは教えられないし、
ロックが歌えない人にロックは教えられない。
ジャズの経歴しかない人なら、基本的にジャズボーカル専門。
クラシックの経歴しかない人なら、ポピュラーは専門外。
ステージに立ったことのないトレーナーに、パフォーマンスは教えられません。

よほど、トレーナー経歴が充実していて、
お弟子さんに各方面で活躍している人がいるというのでない限り、
専門外のボーカルトレーニングは難しいはずです。

また、現役で歌っている人ほど、自分の芸風にこだわりが強いものです。
これは、どんなトレーナーにもいえることですが、
ときに、「自分の歌い方が絶対」となってしまいがちです。
そのトレーナーの、ボーカルスタイルを知ることも、大切だといえます。

では、ボーカルトレーナーはボイストレーニングもできるのか?

実際は、「できなければいけない」というのが私の考えですが、
残念ながら、そういう人ばかりでもありません。

ボイストレーニングは、ボディビルと似ています。
自分自身のベストなパフォーマンスを引き出すためには、
カラダはどのような状態であるべきなのか。
全身をほぐし、各部の意識を高め、フォームを整え、
ひとつひとつ、必要な筋肉を鍛えてゆく。

カラダの構造や、筋肉のあり方など解剖学的な知識のあるトレーナーもいますし、
うんちくはそれほどではなくても、
体験的に、筋肉の使い方を的確に教える事ができるトレーナーもいます。

ボーカリストからトレーナーになった人の多くは、
こうした、カラダに関する知識や、声の物理に関する知識が
圧倒的に不足しています。

自分はなにも考えずに歌えるから、そんな知識は無用だと思うようですが、
残念ながら、自分は人より、身体的に恵まれていたかもしれないし、
センスがよかったのかもしれない。
トレーニングにやってくるほとんどの人が、
根本的な身体感覚がつかめないから、うまく歌えないのです。

表面的な歌のトレーニングより、ボイトレをしっかりやった方が、
結果がよくなるという人もたくさんいます。

よいトレーナーであるために大切なことは、

1.無知の知

まだまだ、自分は何も知らないに等しいと、常に貪欲に研究すること。
力の足りない自分自身を認め、謙虚であること。

2.聴く耳

今、クライアントに必要なことは何であるか、的確につかまえる、理解力があること。
自分自身を押しつけないこと。

3.汝自身を知ること

自分自身の強み、弱みを知ること。
得意分野で、クライアントに貢献できるよう、自分自身を磨くこと。

書くほどに、私自身も身が引き締まる思いです。

ますます勉強。精進です。

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 - ヴォイストレーナーという仕事

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