大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「声」を鳴らせ!「いい声」を鳴らせ!

   

ギターもダメ。ピアノもダメ。
プロになるには、かろうじて誘われる「ボーカル」をがんばるしかない。
そんな風に、あきらめに近い気持ちで決意したのは、20才くらいのこと。

一緒にバンドをやっていた仲間たちが次々と就職活動で音楽から離れる中、何が何でもプロになりたい一心で、親に借金をしてヴォーカルスクールに入りました。

ところが、いざ、歌の学校に入ってみたら、志を同じくするクラスメイトは、みな、そこそこの実力の持ち主。
サークルでちやほやされて、いい気になっていた私は、一気に地味な存在になりました。

そこで、先生からも、クラスメイトからも一目置かれていたのが1年先輩だった”トネちゃん”。
後にBIG HORNS BEEのツアーに参加し、ソロ曲までもらって歌うことになる女性シンガーです。
ソウルフルかつパワフルな歌いっぷりはもちろん、なによりすごかったのは、その「声」。
一声聴いた瞬間に、「すごい」と周りを唸らせる強烈なインパクトがありました。

ピッチが、グルーブが、アドリブがと、みんな夢中で練習に励んでいたけれど、「声」がなけりゃ、それも、「聞く人を一瞬でノックアウトできる声」がなけりゃ、絶対に頭ひとつ抜けられない。
絶望的な気持ちで、そんな風に思ったものです。

ジャズやソウル、R&Bシンガーたちのような、豊かで立派な声。
あんな声は、黒人シンガーだからこそ出せるんだ。
ただの日本人の、しかも、カラダの小さな自分には無理だ。
そんな風に思い込み、自分の「声」をあきらめてきた私。

しかし、目の前で黒人シンガー張りに歌うトネちゃんはどうでしょう。
身長もカラダも、私より、さらにひとまわり小さい。
しゃべる声だって、か弱い、ごく普通の日本女性の声です。

どうやったら、あんな声を出せるのか。
トネちゃんとみんなは、自分は、一体全体何が違うのか。

そんな風に彼女の歌う姿を見るうちに、彼女は「その小さなカラダぜんぶを全力で鳴らしながら歌っている」ということに気づいたのです。
あそこまで全身を鳴らせている子は、他にいませんでした。
これなら、挑戦できるかもしれない…。

練習曲に選んだのは、映画『The Rose』でベット・ミドラーが歌っていた“When a Man Loves a Woman”。
あの強烈な声にあこがれて、来る日も来る日も、ピアノの前に座り、ただ、ひたすら、
“Whe〜〜n な maぁ〜〜ん”という歌い出しだけを、練習し続けました。

口を大きく開けたり、胸に響かせてみたり。
頭のてっぺんに声を集めたり。
上を向いたり、下を向いたり。
全身に力を込めたり。
反対に脱力したりもしました。

一体どのくらい、そんな練習を続けたのだったか。
ある日、ついに、「お、この感じか!」と思える声にたどり着きます。
そこからワンフレーズ、ワンコーラスと、匍匐前進するかのように、いい感じで歌える音域を広げ、フレーズを増やしていったのでした。

カラダは楽器。
どんな楽器にも「一番鳴る音」がある。私の持論です。
カラダが一番鳴る声。
その「声」を見つけることこそが、一生涯にわたって付き合って行く、「自分のカラダ」という楽器と出会うこと。

あなたという楽器の「一番鳴る音」は、どんな音ですか?
ぜひ、探してみてください。

(その後何度も歌うことになるこの”When a man loves a woman”。実は、後日談があります。
あんまり話したくないこともあるので、近々メルマガで書こうかな。)


無料メルマガのご登録はこちらから>>
バックナンバーもすべて読めます。
*ご登録いただいた方には『7 Stepsセルフチェック & リーフレット』『朝から気持ちいい声を出すモーニングルーティン10』をWプレゼントしています。

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 声のはなし, 歌を極める

  関連記事

「いい音を出すには、ある程度の音量が必要だ!」とかって言いますけどね・・・。

「いい音を出すには、ある程度の音量が必要だ」 ロックギターリストが口をそろえて言 …

練習の成果は「ある日突然」やってくる

はじめて「上のF」が地声で出た瞬間を、 今でも鮮明に覚えています。 学生時代は、 …

「自分のことば」になってない歌詞は歌えない!

役者さんがしばしばつかうことばに「セリフを入れる」というのがあります。 この「入 …

クリスマスソング、何曲ちゃんと歌えますか?

Merry Christmas!   クリスマスのうきうき感は、 イル …

「ビートを立てる」って難しい。〜Singer’s Tips #11〜

「もっとビート立てて、リズムよく歌って。」 などというディレクションを受けること …

知っていること vs. わかること vs. できること

知っていることと、わかっていることの間には、大きな溝があります。   …

「歌われているように書く」で英語の歌は劇的にうまくなる

ちょっと怪しいタイトルですが、 今日はタイトルだけ読んでいただければいいくらい、 …

「声が届かないって、こんなに自己肯定感を下げるものなんだ」。

何年か前のこと、 風邪をこじらせて、声がカッスカスになってしまいました。 よほど …

「出せない音」「イマイチ鳴らない音」を克服する方法

何度練習しても高いところが歌えない、 全体に低くて気持ちよく鳴らせない・・・ そ …

「自分の音域を知らない」なんて、意味わからないわけです。

プロのヴォーカリストというのに、 「音域はどこからどこまで?」 という質問に答え …