覚えた歌詞は1000曲超。 歌詞は裏切らない。
ヴォーカリストとしてキャリアをスタートして、むにゃ10年。
お仕事で、セッションで、バンドのライブで。
これまで立ってきたステージはおそらく1000は下りません。
そのたびに、可能な限り、歌詞を頭に入れて歌ってきました。
たまたまイベントで「歌って」と依頼された曲。
1回きりのセッションで歌うことになった曲。
そんな曲まで、いちいち、歌詞を覚えてたら大変だという向きもあるでしょう。
いや。わかる。
歌詞を覚えるのは、いわば、知的肉体労働。
「覚える」などの勉強で、脳が消費するカロリーは、1時間に100キロカロリーほど。
可能な限り省エネに暮らして、長生きしたい脳としては、本人に「めんどくさい」「そんなの大変」と信じこませることで、「覚えよう!」というやる気を、全力でそぎにかかるらしい。
さらに。
歌詞覚えたての状態でステージに立つのは、そりゃもう、おっかない。
歌ってる最中に、歌詞が飛んだらどうしよう?
間違えたら、きっとみんなわかるよな。
構成見失ったら迷惑かける…。
そんな思いが頭の中にドドドと押し寄せる。
よほど何度もリハをやるようなバンドでもない限り、
本番前に、口からするすると歌詞が出てくる状態まで追い込むのは、不可能と言っても過言ではありません。
いや、正直、自分が歌詞を書いた曲でも、その曲のレコーディングを終えた直後でも、
「歌詞が完璧に頭に入ってる」って状態になるには、最低2〜3回はステージを踏みたい。
ツアーの仕事や、ライブ本数が多いバンドなら、そういう状態でステージに立てることもありますが、
セッションやイベントなどでは現実的ではありません。
「だったら、譜面台立てた方が、安心して歌えるよね?迷惑もかけないよね?」
となるのが自然です。
あぁ、それなのに。
なんで私は、わざわざ歌詞を覚えようとするのか。
理由は3つです。
まず第一に「ヴォーカリストが歌詞カード見ながら歌っているのくらい格好悪いことないわよね」
という、私なりの美学があります。
もうこれは、理屈じゃない。
ティナターナーが譜面台立ててたか?
ロバートプラントが歌詞カード見て歌ってたか?
一流になりたかったら一流のアチチュードを真似る。
そんな風に、ずっと思ってきたわけです。
2つ目は、そもそも昔から視力がイマイチで、
ステージの薄暗がりでは、歌詞カードにかがみ込んでガン見するか、
カンペもよほどデカく書かないと、読めないこと。
歌詞カードにかがみ込むのはいかにもカッコ悪い。
カンペを途中でめくるなんて、ロック的に言語道断。
まぁ、カッコつけたいんですよね。間違いなく。
そして第3の理由。
これが一番デカいんですが、
そもそも、集中力が高すぎて、歌っているときに歌詞カードを追いかけるのが無理なんです。
イントロがはじまった瞬間、いわばズドンと歌の世界に入り込んでしまう。
ステージの上では、完全にゾーンに入るので、「歌詞を読む」なんて、左脳行動は不可能です。
歌詞を見なくちゃと思った瞬間、頭から水をぶっかけられるくらい、素に戻る自分が気持ち悪いんです。
というわけで、「歌詞は覚える!」をモットーに生きて来て、むにゃ十年。
もちろん、本番中にことばがすっ飛んで、冷や汗をかいたことも、
1番と2番を間違えて、違うメロディに行っちゃったことも、
なんなら歌詞もメロディも、ひと言も出てこなくなったことだってあります。
それでも覚える。
大変だし、大恥かくこともあるけど、覚えようとすることをやめる気はありません。
このがんばりには、大きなご褒美がついてきます。
1000ステージ、毎回1曲ずつしか歌詞を覚えなかったとしても、頭の中には1000曲の歌詞が入っている計算です。
実際には、もっとたくさん入っているはずです。
英詞って、意味がわからないと覚えられないから、わからないことばは辞書を引く。
発音記号をチェックする、というのをアナログ辞書の時代からずっとやってきました。
しかも、歌詞の世界を頭の中でシミュレーションしながら、セリフを言うような気持ちで歌詞をカラダに入れて行くので、自然に生きた英語としてカラダに刻まれます。
歌詞は裏切りません。
大学受験で「でる単」すらまともに暗記しなかった私が、英語を普通に話せるようになったのも、
英詞を自然に書けるのも、頭の中に入っている歌詞たちのおかげです。
「覚える」は技術です。習慣です。
だから、覚えるほどに「覚える」は速くなる。
かつては、2回歌詞カードを見ながら歌うと、3回目は歌詞を覚えて歌えた私ですが、
最近は、脳内OSもだいぶ古くなってきたんで、さすがに3回目では無理です。
いや、30回目でも怪しい。
「もうこれ以上無理!」ってなるまで、あと何曲覚えられるか。
挑戦は続きます。
あなたは歌詞を、覚えていますか?

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