大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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誰に話しても「ウソぉ〜」と言われるOnline映像制作秘話②

   

まだセミアマぐらいだった頃、
映像系音楽プロデューサーの
アシスタントをしていました。

横文字で書くとカッコいい職業のように聞こえますが、
まぁ、使いっ走り。
プロデューサーの代わりに、
映画の撮影現場にも出向きました。

映画の撮影現場というのは、
いやー、実にすさまじい。

時は1980年代です。
もちろん、デジタル以前。
まだフィルムを回していました。

監督、プロデューサー、助監督はもちろん、
カメラ、照明、ヘアメイク・・・etc.etc.
もの凄い数のスタッフさんが、
役者さんを取り囲んで撮影をします。

撮影の大半は野外でした。

このときの照明さんのお仕事ぶりがすごかった。

役者さんの顔近くに照度を計る機械を持っていく。
そして、常に一定の光が、一定の強さで当たるように、
反射板やら、照明器具やらをつかって調節するのです。

室内で照明を当てているのとはわけがちがいます。
敵は太陽です。
太陽の光はどんどん移動し、形を変え、色を変え、
辺り構わず影をつくります。

現場にも寄るでしょうが、
映画の場合ちょっとしたシーンを撮るだけでも、
何時間もかかります。

高校生が屋上でバンドの練習をする。
そんな、たった1曲の演奏シーンなのに、
撮影は朝から日が暮れるまで続いたりするんです。

1曲の演奏シーンなのに、
影がぐいぐい移動したり、
日がギラギラ顔に照りつけたり、
急に薄暗くなったりしたら困りますよね。

それを職人技で「自然に」見えるようにするんです。

映画の中で「自然に」見えるシーンは、
名人芸の集大成なんですね。

さて。

こんな大きい話をした後に恐縮ですが・・・

昨日の続き。

スタジオに入ってみたら、
あら。
想像していた以上に部屋の中が暗いんです。

それもそのはず、
お借りしたスタジオは、
高級グランドピアノを弾けるというのが売り。

ピアノに光が当たって劣化しないように、
窓に雨戸のような日よけがずら〜っと、
はめ込まれていました。

試しにカメラで顔を撮ってみると、
いかにも暗い。

これでは貧乏くさい絵しか撮れません。

そこで、レール式の部屋の照明を、
思いきり1点に集めて、
さらに、持参した家のスタンド照明を
ぎんぎんに当ててみたら、
今度は影がくっきり出過ぎて、
これまた暗くなる。

いやー。光ってすごい。

光を当てれば影ができる。
そんなあたり前のことに気づかされ、
まいったなぁとなりました。

照明さんって、本当に名人なんだな。。。

 

そこで、仕方なく、
(たぶんオーナーさんは嫌がるんでしょうが)
部屋中の日よけを外しまくりました。

外の光を反射板や白い紙をつかって集めます。

すると、なんとか、
欲しかった明るさができました。

あぁ、プロのカメラマンや映像マンが
大きな照明を持ち歩くのって、
そういう意味があったのね。。。

そうして、夜までの撮影の間中、
何度も何度も照明や反射板の位置を移動し、
初日はなんとか、それなりの明るさで撮れたのでした。

ちなみに音に関しては、
室内ではありましたが、
ちゃんとガンマイクを用意しました。
(マイクが向いている方向の音を集中的に拾うマイク)

これも、本当に用意していてよかったと思ったのは、
クラシック系のスタジオなんで、
思いの外、防音が甘い。
だから、隣の工事の音が入り込んで来るんです。

ガンマイクと、
Zoomのレコーダーで、
セーフティで撮っておいた音のおかげで、
なんとか(一部気になりますが)、
それなりの音で撮ることができました。

ちなみに、デモにも映っている、
植物や椅子も運び込んだもの。

本来ならソファーがあったのを勝手に移動して、
自宅レッスン室っぽい雰囲気をつくりました。
(もちろん、原状復帰でお返ししました。)

スタジオに入ってから、
セッティング、音決め、
照明決めまでの作業を終えて、
実際に撮影に入るまで、
2時間くらいはかかったかもしれません。

 

アマチュアには、
完璧な機材とノウハウ、
経験のあるプロフェッショナルと同じ仕事はできません。

予算や時間があれば、
プロにまかせるのもいいでしょう。

でもね。

自分のつくりたいものが明確じゃないなら、
どんなプロに頼んだって、
やっぱりしっくりくるものなんか、
できるわけがありません。

それは曲でも、歌詞でも、
アレンジでも、全部同じ。

自分の気持ちにしっくりくる音は、
自分にしかわからない。
そこが明確にならないうちに、
誰かに頼んでも、
絶対の絶対に不幸な作品しかできないんです。

だから、

何かを創りたいなら、
自分の創りたい形がくっきりと明確になるまで、
徹底的にイメージを研ぎ澄ます。

できる限り、できるところまで、
自分の力でやってみる。

すると、足りないものが見えてきます。

プロって、すごいな、がわかる。

どんなにがんばっても、これとこれとこれは、
思い通りにならないな、ってこともわかる。

プロに頼むのは、それからです。

 

なんでもレバレッジとか、
餅は餅屋とかっていうけれど、

およそクリエイティブなことに関しては、
どんな怠惰もNGです。

自分の欲しいものがわかんないのに、
誰かに買い物頼むようなものです。

そして、欲しいものがわからない人に限って、
欲しくないものははっきりわかるものなんです。

そんなわけで、撮影では、
ものすごい時間をかけて、
たっくさん学習いたしました。

 

しかし、本当に大変だったのは、
撮影じゃなかったんです・・・つづく・・・。


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