大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「歌の練習」って、なにしたらいいんですか?

   

「練習って、なにしたらいいんですか?
MISUMIさんは、なにしてるんですか?」

音楽学校の講師時代、生徒にこんな風に聞かれて、
どぎまぎしたことがあります。

え?え?
そういえば、あたし、練習って、何してるんだろう?

「練習してらっしゃい!」と毎週のように生徒たちに言っている、
当のあたしが、、え?そういえば、練習って、してる?

言われてみれば、ウォーミングアップってのも、
あれ?ちゃんとやってなくない?

毎日のようにレコーディングのお仕事があったから、
エクササイズして、お風呂入って、
支度して、家を飛び出して、
移動中に「ひゅ〜ほ〜」なんちゃって、軽〜くノドを整えて。
後は、現場に入るだけ。

ライブもまぁまぁな本数をやっていたから、
歌詞を覚えたり、
もっとカッコよく歌うにはどうするかとか、
どんな風に動くかとか。
練習と言えば、練習かもしれないけど、
まぁ、あれは「準備」だなぁ。

家にいるときは、
たいがい曲を書いているから、
あーでもない、こーでもないと
歌いながらメロを考えたり、歌詞を書いたり。
デモを歌う時は、表現をくふうするんで、
あれこれやるけど、あれは「試行錯誤」で。

そんな日常だったんで、
「練習しなくちゃ」とあらためて考えたことはなかったわけです。

 

とはいえ、昨今は事情がちがいます。

生活の中で、
歌うことよりも書くことの比重が圧倒的に大きくなっていることもあって、
いざ、ライブだ、イベントだ、となると、
少なからず朝練期間と称する、リハビリ期間が必要になります。

じゃ、リハビリ、なにやってるのか?と言えば、

私が生徒にしているようなドミソミド〜みたいな練習は、一切なくて。

朝ヨガをして、カラダをちょっとほぐしたら、スタジオにこもって、
いきなり、歌い出す。

F#だのGだの出てくるので、
カスッとなったり、「高っけ〜〜」とか悪態をついたりしながら、
最初は、軽めに歌い出して、
だんだんドライブをかけていく感じです。

抜ける音を探したり、鳴るポイントを確認したり、
ぐいぐい音圧を上げてみたりしながら、
イメージ通りの表現をできるように、
頭の中で鳴っている声を出せるように、調整していく。

これが、私にとっては一番いい練習になります。

基礎トレが不要と言っているわけではありません。
(これについてはまたあらためて書きます。)

ただ、明確に自分の出したい音がわかって、
自分自身のコンディショニングに自信があるなら、

歌い方の強度を調整することで、
ウォーミングアップしたり、
筋肉を活性化したり、ビルドアップしたりすることは可能ですし、

むしろゴールが明確な分、
バキッと必要なところに切り込めます。

で、何が言いたいかといえば、
練習ってのは、セオリーはないんですね。
これが正しいとか、これをしなくちゃいけないってのは、
自分で見出すもの。

練習するというプロセスそのものが大事なんじゃないし、
「練習してきて」というのは、結果が出ていないからで、
「もっと歌と向き合う時間をつくりなさい」ってことであって。

つまり、何したらいいか、って考えることも練習のうちなんですな。

そういうことです。

■2023年3月、3年ぶりに開講。MTLヴォイス&ヴォーカルトレーニングの詳細はこちらです。6日間を1日にぎゅっと凝縮、ダイジェスト版は1月28日です。

 - The プロフェッショナル, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

  関連記事

リズムが悪いと言われたら真っ先にすること。~Singer’s Tips#10~

「リズムが悪い」と言われた時、 真っ先に点検すべきは、 点=ビートを捕らえられて …

ペダル、踏んじゃだめよ。

小学校4年の時に、友だちの弾くピアノの調べに胸を射貫かれ、親に頼み倒すこと3年あ …

「いつものあれ」でお願いしますっ!

ずいぶん前のこと。 たまたまつけたテレビに、 ホイットニー・ヒューストンが出てい …

歌に必要なことは、歌の中から学びとる!

人にものを教えるときは、まず真っ先に、 その人が、ゼロ地点にいて、もっと上を目指 …

レコーディングでうまく歌えない原因と対処法。

先日メルマガのお便りフォームに、下記のような質問をいただきました。 (一部プライ …

自分自身を「スポットライトのど真ん中」に連れて行く。

スポットライトって、すごいなぁと、 ヴォイトレに来るアーティストたちの、 コンサ …

「髪の毛一本」レベルで、音の長さにこだわる。~Singer’s Tips #18~

歌の印象を大きく変えるポイントのひとつに、 「音の長さ」があります。 歌い出しの …

極度の緊張に負けない自分になる|本番で力を発揮するコツ

「極度の緊張」のため、肝心な舞台でしくじる。 舞台度胸がないとか、練習が足りない …

レッスンでは、トレーナーの「アーティスト性」は無用どころか、邪魔なんだ。

レッスンの折には、多かれ少なかれ、 生徒たちに、歌を歌って聞かせるシーンというの …

10回のリハより1回の本番

「10回のリハより1回の本番」 ミュージシャンたちが、異口同音に言うことばです。 …