大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「歌の練習」って、なにしたらいいんですか?

   

「練習って、なにしたらいいんですか?
MISUMIさんは、なにしてるんですか?」

音楽学校の講師時代、生徒にこんな風に聞かれて、
どぎまぎしたことがあります。

え?え?
そういえば、あたし、練習って、何してるんだろう?

「練習してらっしゃい!」と毎週のように生徒たちに言っている、
当のあたしが、、え?そういえば、練習って、してる?

言われてみれば、ウォーミングアップってのも、
あれ?ちゃんとやってなくない?

毎日のようにレコーディングのお仕事があったから、
エクササイズして、お風呂入って、
支度して、家を飛び出して、
移動中に「ひゅ〜ほ〜」なんちゃって、軽〜くノドを整えて。
後は、現場に入るだけ。

ライブもまぁまぁな本数をやっていたから、
歌詞を覚えたり、
もっとカッコよく歌うにはどうするかとか、
どんな風に動くかとか。
練習と言えば、練習かもしれないけど、
まぁ、あれは「準備」だなぁ。

家にいるときは、
たいがい曲を書いているから、
あーでもない、こーでもないと
歌いながらメロを考えたり、歌詞を書いたり。
デモを歌う時は、表現をくふうするんで、
あれこれやるけど、あれは「試行錯誤」で。

そんな日常だったんで、
「練習しなくちゃ」とあらためて考えたことはなかったわけです。

 

とはいえ、昨今は事情がちがいます。

生活の中で、
歌うことよりも書くことの比重が圧倒的に大きくなっていることもあって、
いざ、ライブだ、イベントだ、となると、
少なからず朝練期間と称する、リハビリ期間が必要になります。

じゃ、リハビリ、なにやってるのか?と言えば、

私が生徒にしているようなドミソミド〜みたいな練習は、一切なくて。

朝ヨガをして、カラダをちょっとほぐしたら、スタジオにこもって、
いきなり、歌い出す。

F#だのGだの出てくるので、
カスッとなったり、「高っけ〜〜」とか悪態をついたりしながら、
最初は、軽めに歌い出して、
だんだんドライブをかけていく感じです。

抜ける音を探したり、鳴るポイントを確認したり、
ぐいぐい音圧を上げてみたりしながら、
イメージ通りの表現をできるように、
頭の中で鳴っている声を出せるように、調整していく。

これが、私にとっては一番いい練習になります。

基礎トレが不要と言っているわけではありません。
(これについてはまたあらためて書きます。)

ただ、明確に自分の出したい音がわかって、
自分自身のコンディショニングに自信があるなら、

歌い方の強度を調整することで、
ウォーミングアップしたり、
筋肉を活性化したり、ビルドアップしたりすることは可能ですし、

むしろゴールが明確な分、
バキッと必要なところに切り込めます。

で、何が言いたいかといえば、
練習ってのは、セオリーはないんですね。
これが正しいとか、これをしなくちゃいけないってのは、
自分で見出すもの。

練習するというプロセスそのものが大事なんじゃないし、
「練習してきて」というのは、結果が出ていないからで、
「もっと歌と向き合う時間をつくりなさい」ってことであって。

つまり、何したらいいか、って考えることも練習のうちなんですな。

そういうことです。

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 - The プロフェッショナル, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

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