大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「ヘタウマ」な人、「じょうず」な人、「いい声」の人。

   

若かりし頃、よく言われたことばに、

「キミってヘタウマだよね。」というのがあります。

今のように、ググったり、wikiったりできない時代です。

そう言われるたびに、ことばの意味がよくわからなくって、
「これって誉められているのか?けなされているのか?」と、
なんだか腑に落ちない、妙にイヤな気分になったものです。

さて。ここは21世紀。
ググればあっさり答えは見つかります。

ヘタウマとは、創作活動において技巧の稚拙さ(つまり「ヘタ」)が、かえって個性や味(つまり「ウマい」)となっている様を指す言葉・・・(中略)技巧が下手でしかも人を惹きつけて止まない魅力があるものを指す。」(wikipedia)

うーん。

要約すれば、「なかなか味のあるいい歌歌うよね。ヘタだけど。」
となるでしょうか。

けして誉めてない。。。

ホントに「いい歌」なら「ヘタ」は耳に入ってこないはず。
「感動するほどいい歌だけど、
よくよく聴いたらちょっとピッチやリズムが甘かった」
という人に、「ヘタウマ」とは言いません。

 

もちろん、ことばの意味は話し手や受け手によって変わります。
心から誉めて使う人もいるでしょうが、
私の場合に限って言えば、
暗に「レベルに達してない」という意味だったのでしょう。

 

さて。

とあるシンガーのライブ後、楽屋に来て、
「あなた、ホントにじょうずだね〜。
こんなにじょうずな人、見たことないよ。」と、
そのシンガーを誉めているミュージシャンがいました。

言われたシンガーは「またか」と言うような冷めた顔をして、
「ありがとうございます」と言っています。

その場に居合わせた私は、
あんな風に「つまらない歌だった」と伝える方法があるんだと、
変な感心をしたものです。

ピッチもリズムもばっちりで、
フレージングも表現も巧み。

「じょうずだなぁ。。。」

しかし、それしかことばが出てこない。
技巧を追求する人ほど、陥りやすい場所です。

どんなに「じょうず」でも人の感動を引き出せなくては、
歌う意味はなくなってしまいます。

参考:「上手そうに歌うな」

では、「いい声」はどうでしょう?

私が心の底から「いい声〜!」と震えたのは、
かつてよくお仕事をさせていただいた、
柳ジョージさんの声でした。

長年レコーディングに携わり、
いつかステージでサポートをやりたい、という願いが、
突然叶った時のことです。

リハーサルスタジオで、
モニタースピーカーから流れてくるジョージさんの歌声を聞いた瞬間、
もう、ホントに涙が出るほど素晴らしくって、
全身が震えたものです。

ジョージさんは、正真正銘の「素晴らしい声」の持ち主でした。

「いい声」と言うことばには、
「感動した」が含まれている場合と、
「声はいいけど何かが足りない」
というメッセージが含まれている場合がありそうです。

声の魅力は天賦の才+努力ですね。

 

どんなに「じょうず」でも、
「いい声」じゃないと、人は感動しません。

「いい声」なのに、あまりに「ヘタ」ではもったいない。

「ヘタウマ」と言われて満足して、
終わってしまう人もいるでしょう、

「ヘタウマ」から技術を磨いて、
素晴らしい歌手に転身する人もいる。

「ヘタウマ」を武器にして魅力を磨く人もいる。

「いい声」で「ヘタウマ」という人もいそうです。

 

誰かに言われたことばを、どう受け取るか、どう生かすか。

昨日もお話したように、
人が言ってくれることばは、たとえどんなことばでも、
自分になにかしら与えてくれるものなのですね。

◆ 3月10日(土)【第6回ダイジェスト版 MTL voice & vocal レッスン12】受付開始!

毎回あっという間の満席をいただいているダイジェスト版MTL12。
3月10日(土)に開催決定いたしました。一般受付はいよいよ明日から。
ダイジェスト版の詳細はこちらです。
https://goo.gl/NoPkA3

◆【第5期 MTL ヴォイス&ヴォーカル レッスン12】 メルマガ読者さんだけの早割受付スタート!
詳しくはメルマガで。
ご登録はこちらから。

第5期MTL12の詳細は下記をご覧ください。
https://goo.gl/88mAh7

 - The プロフェッショナル, 声のはなし

  関連記事

「声が低けりゃ威厳を感じるのか問題」を考える。

ヴォーカリストの悩みで一番多いのは、 「高い声が出ない」。 一方で、ビジネスパー …

鳴らない楽器と鳴らせないプレイヤー

輸入物の下着の値段を見て、 ひっくり返りそうになったことのある女子なら、 「洋服 …

お金、時間、労力、そして愛情をかける

楽器の人たちが機材をそろえるのに使っているお金、時間、労力は、 並大抵ではありま …

歌がうまくなりたいなら、そろえるべきアプリ10選!

今日はヴォーカリストやトレーナー、歌がうまくなりたい人が持っていると便利なお勧め …

「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。

人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。   小 …

「売れ線狙い」は劣化コピーを生む。

「これ、今、売れてるから、この路線で行こう!」 そんな風に言うおじさまたちが、一 …

「中上級の壁」を越えるための5つのポイント

今日は午前中から、外資系企業でバリバリと働く才媛かつ、美しき女性シンガーAさん、 …

「圧倒的な安心感」をくれるプレイヤーの条件

魅力的なプレイヤーたちとのパフォーマンスはドキドキ感の連続です。 心地よい音色と …

人に認めてもらえない3つの理由

趣味で、仕事で、コミュニティで、 認められたいのに、認められない。 自分は認めら …

衣装にこだわる?「こだわらない」ことにこだわる?

衣装の選び方は、ひとそれぞれ。   「とにかく楽なこと」と、オシャレ度 …