大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人

   

「歌のうまい人」には2種類います。

ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、
高い声やら、アドリブやら、ビブラートやら、
それこそ、ありとあらゆるテクニックを、
これでもかと見せつけてくる、
わっかりやすく歌がうまい人たちと、

普通のポップスを、
何気なく、
さらりと歌いこなすタイプの、
うまい人たち。

 

わっかりやすくうまいチームの歌は、
聞いただけでひるむくらい、
音域が広く、
ダイナミックで、

リズムが巧妙だったり、
ことばが詰め込まれていたり、
メロディラインが難解だったり。

そのスリルとサスペンスに満ちあふれたパフォーマンスに、
聞く人は心揺さぶられ、
アドレナリンが出まくります。

 

歌を志すものたちは、

こんな声出せない、
こんなメロディ歌えない、
こんなスピード追いつけない・・・と、
フロンティアスピリッツを刺激され、

ちっくしょ〜〜と食い下がるうちに、
どんどん練習にのめり込んでしまう。

技巧派に憧れるシンガーたちは、
ギャンブルやゲームにハマるように、
歌を攻略したくて、
練習にのめり込んでいくんですね。

一方で、
さらり系のうまい人たちのパフォーマンスでは、
曲の魅力、詞の魅力、声の魅力が、際立ちます。

なんかマネしたくなる。
自分も歌える、なれる気がする。

ところが、聞くとやるとは大違いです。

歌ってみたら、
意外なほど音域が広い、
メロディも歌詞も難しい、
なんだかちっとも雰囲気が出ない。

何気なく、さらりと歌うポップスの名人たちは、
何をどうしたらいいのか、
その技の盗み方さえわからないもの。

だから、歌えている気になるか、
単なるモノマネになっちゃうかの、
どちらかなんですね。

現代はテクノロジーのマジックがありますから、
どこまで本当にうまいかはわかりませんが、

かつてのシンガーたちは、一発録りで、
難しい曲をさら〜っと歌って、
実に魅力的なパフォーマンスにしたもの。

さらりとピッチを完璧にあてる。
フワッと、高い音を揺るぎなく出す。
こけおどしにならないビブラートを自然にキメる。

アドレナリン・ジャンキーを卒業すると、
さらりとふわりと、
何気なく歌うシンガーの魅力が、
見えてきます。

歌は深いですね。

 

◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事のインサイドストーリーなど、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, The プロフェッショナル

  関連記事

「音楽はひとりではできない」の本当の意味

サポート・コーラスのお仕事で日本全国をツアーしていた頃。 ツアー先の地方の会館に …

なんで、ずれないんですか?

レコーディングの現場で頻繁につかわれることばに、 「ダビングする」、「ダブる」、 …

「プロになりたい」って一口に言ってもね・・・

少し前、若手売れっ子ドラマーがインタビューで、 「ドラムを始めたときから、歌バン …

「いい音」出したいっ!

いいプレイヤーか否かは、1音聴いただけでわかる。 そんな風に言う人がいます。 そ …

「完全無欠」を更新する。

「自分の頭の中にあることのすべてを文字化したい」などという、 イカれた考えに捕ら …

大切なのは声の「大きさ」や「高さ」ではなく、「音色」なんです。

東京アラートは出ていますが、 自粛解除になったということで、 すご〜〜く久々に、 …

行動しないで成功できる「成功法則」なんかないっ!

夢を叶えたいと思う人なら、 誰でも一度くらいは、 「成功法則」や「引き寄せの法則 …

人は生涯に、何曲、覚えられるのか?

優れた作曲家、アレンジャー、プレイヤー、 そして、ヴォーカリストの多くが、 びっ …

デモをつくれ!

「音楽の世界で認められたいなら、 とにもかくにもデモをつくれ」と、 音楽学校でも …

大きな声を出せないときに、やるべきこと。

各地で次々と緊急事態宣言が解除され、 コロナ自粛も出口が見えてきました。 とはい …