大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「ストリートミュージシャン」というお仕事

   

欧米では、
街角や地下鉄の通路などで、
音楽を演奏するミュージシャンに、
しばしば出くわします。

そして、これがみなさん、
なかなかに達者なミュージシャンばかり。

マンハッタンでストリートミュージシャンをしていた、
プエルトリコ出身のギターリストは、
ストリートで稼いだお金で、
なんとか生活できていると言っていました。

もちろん今のマンハッタンや、
ロンドンの家賃を払えるほど稼ぐのは相当大変でしょうが、
少なくとも90年代は、
まだまだそんなことが可能なくらいのお金は
稼げていたようです。

日本でもいわゆる「路上」は
ずいぶん定着してきたように思いますが、
それを仕事にするのは、まず難しいでしょう。

理由は3つ。

1つは、日本の「道路交通法」という法律のため。
見回りのお巡りさんにみつかったり、
誰かに通報されると、
まず間違いなく追い払われるらしい。

ゆっくり演奏できないんですね。

追い払われるままに、
ちょっと歌っては移動、
また歌って、すぐ移動・・・

取り締まりの厳しくない場所は取り合いといいますし、
オリンピックが決まってから、
お巡りさんの見回りはますます強化されたとも聞きます。

いい演奏をするのにも、
上達するためにも、
お客さんを育てるにも、

いやー、難しい。
これでは、投げ銭も思うようにもらえないでしょう。


理由の2つめは、

日本にチップ文化がないこと。

日本って、サービスや笑顔は無料の国です。
路上で音楽をやっている人は、
好きだからやっている、
こっちは聞いてあげている、
え?お金払うんなら、聞かないわ・・・という感覚。

欧米は違うんですね。
たとえばレストランで支払う代金は、
食べたものに払うお金。

注文を取りに来てくれたり、
料理を運んでくれたり、
「大丈夫?美味しい?」と、
愛想よく聴きに来てくれたりする人は、
時給じゃなくって、チップで生活しています。

チップを払わないということは、
たとえば、商品を買って、
有料の箱に入れてもらって、
綺麗にラッピングしてもらって、
郵送までしてもらうのに、
「商品代金に入ってるでしょ?」と支払いを拒否するのに近い。

そういうチップ感覚が、まだまだ日本には育ってないんですね。

3つ目は、演じる側の腕とコミュニケーションスキルです。

少し前、日本の観光地で、
とある大道芸人のパフォーマンスに、
人だかりができていました。

芸人さんも芸達者で、
みんな大うけ、大盛り上がり。
拍手喝采でした。

さて、パフォーマンスが終わろうというときです。
芸人さんがおもむろに帽子を取り出して、
お客さんたちの方に近づきながら、
こんな演説をはじめました。

「ボクたちはこれで喰ってます。
お金払ってください。
払うつもりがないなら、最初から見ないでください。」

真顔で、詰め寄るようにお客さんたちの間を回る彼に、
お客さんたちはどん引き。

あーあ、です。
あれをやられると、せっかく楽しく見ていた方も台無しです。
みんな潮が引くように去ってゆきました。

クロージング=お金をいただくまで持っていくのも芸のうちです。

ストリートで何枚もCDを売ったり、
チケットを売ったりできる子たちは、
やっぱり、コミュニケーションスキルがある。

だってさ、寅さんみたいな人が芸してたら、
レディーガガみたいな人が歌ってたら、
いや、たとえ、2人とも無名だったとしても、
コスチュームもなんにもつけてなかったとしても、
絶対に気がついたらお財布のヒモ、ほどいてますよ。
それが本物の芸。

リアルの大切さが身に染みる今だから、
日本にだって昔からある、
そんなストリート文化を、
もっともっと大切にしていきたい。

アートやパフォーマンスに対する、
自治体の理解も必要だし、
見る側の思いやりやマナーも大切。

そして、同じくらい、
パフォーマーたちにも、
見る人が思わずお金を払いたくなるような、
達者な芸と、コミュニケーションスキルを、
もっともっと磨いて欲しいなと思うのでした。

 

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