本物に触れる。 本物を知る人の感性に触れる。
ずいぶん昔のことになります。
親戚の知り合いだったか、
知り合いの親戚だったか、
「こどもがクラリネットをはじめたいって言ってるんだけど、
どこで何を買ったらいいのか・・・MISUMIさんプロでしょ?
聞いてもらえないかしら?」
と、又聞き的な相談を受けたことがあります。
もちろん、管楽器は門外漢の私。
困ったなぁと思いながらも、
大事な楽器のことで、
テキトーなことを言うのは嫌だったので、
当時お世話になっていた音楽学校の事務局に相談し、
そこから、クラリネットの先生に話をしてもらい・・・
と、長い経路をたどって、
最終的にはその先生と、先方と、
直接やりとりをしてもらうことにしました。
すると、しばらくして、
「うちは初心者で、続くかどうかもわからないのに、
ずいぶん高い楽器を買わされそうになった。」
と、半分苦情のような連絡がきて、
ひっくり返りそうになりました。
この「ずいぶん高い楽器」が、
いくらだったのか知るよしもありませんが、
プロが、初心者に何百万もする楽器を勧めるはずもありません。
おそらくは最低限の、初心者向けの、
よい楽器を推薦したのでしょう。
わからないというのは、
本当に恐ろしいものだと、しみじみ思ったものです。
プロは、音楽に手を抜きません。
楽器のプロは、楽器に愛情を持っているし、
楽器との出会いや関係性を、
どこまでも大切に考えています。
「はじめての楽器は大切だからと思って、
お勧めしたんですけどね」
平身低頭、クラリネットの先生にお電話したときに、
そのように言われ、顔から火が出る思いでした。
(まったくもお。あたしはなんの関係もないのに!)
プロになる人と、途中でやめてしまう人たちは、
はじめる前から、目線が違うのかも知れません。
そもそも、「続くかどうかも分からないのに」というスタンスで、
音楽をはじめること自体が、理解できません。
楽器を欲しいと思うのに、下調べもせず、
手軽に「プロに聞けばいいや」と思うのも不思議だし、
そもそも「プロ」というものを理解していないのに、
「プロ」の恩恵にあずかろうというのも納得がいきません。
わかってねえなぁ・・・。
かくいう私も、人の事は言えません。
こちらも、ずいぶん昔のこと。
「そろそろ真面目にもう一回ギターをやりたいな」と思い立ち、
家中のギターを次々弾いてみたものの、
重さといい、大きさといい、文字通り、手にあまる。
よっしゃと一念発起して、
高校以来はじめて、Myギターを買う決意をしました。
「あたし、自分用にいいギター買う!
そんな最高級品じゃなくていいんだけど、
でも、いいやつ欲しい!」
ジェフ夫さんに、そう相談したら、
それならグレッチにしなさいと、
ジェフ夫さんが選んでくれた楽器は、
私の予算の3倍を軽く超えたギターでした。
えー!?
だってぇ、そこまでの値段の楽器じゃなくても・・・
そう心の中で叫びながら、
同じ相談を、ギターリストの末原康志さんにしたら、
「あぁ、グレッチ、手頃でいいよね!」というお答え。
て・・・手頃って・・・
「え?いくらくらいの予算だったの?」
高校時代に生まれてはじめて買ったエレキは、
確か、3〜4万でした。
よっしゃと一念発起した私が、設定した予算は、10万円くらい。
「10万くらい出せばどうかなって思ってたんです・・・。」
末原さんは、半笑いで、
「いやー、せっかく買うのに、おもちゃみたいの買ってもしょーがないでしょう」
とばっさり、私の甘い考えを斬って落としました。
わかってねぇな・・・あたし。
自分自身の「どアマチュア」加減に気づかされた私は、
結局、2人のギターリストを引き連れて楽器屋さんへ。
2人のお勧めのグレッチのギターを、
代わる代わる2人に弾いてもらって、
「うん、いいね」
「音もいいよね」
と、2人が楽しそうに試奏する音を聞き、
2人の楽しそうな会話を聞いて、
自分はちょっと鏡の前でギターを持ってみただけで、
即買いしてきました。
でね、結論から言うとね、
もう、信じられないくらい、いい買い物でした。
ギターを弾くこと自体が、
「気持ちいい!」と思ったのは、初めてでした。
触れているだけでワクワク、ドキドキ、
音を聞くとずっきゅん。
ギターに恋する男の子たちの気持ちが、
しみじみわかりました。
(ま、ヤツらは気が多いんですけどね)
本物に触れる。
本物を知る人の感性に触れる。
どんな道も、それこそが王道。
それこそが近道。
本気で興味を持てないうちに、
本物の恩恵にあずかろうというのは、ケガのもと。
本物はいつだって本気でその道を愛し、
本気の人だけを応援したいものなんですよね。
◆“MTL ヴォイストレーナーズ・メソッド” 〆切間近。
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