「あたり前」を極める
「自分があたり前にやっていることで、
他の人が絶対にマネできないことに注目しなさい。」
かつて、出版の師匠にそんなことを教わりました。
これが実に難しい。
なにしろ、自分という人間は、
自分にとってはうんざりするほど平凡で、
あたり前の毎日を、絶望的に繰り返すだけの、
取るに足らない存在。
自分がやっていることなんて、
誰だってあたり前にやっている、はず。
そんな自分という人間の日常に、
特殊性や特異性を見出すことは、
実に難しく感じました。
特別な人間になりたい。
新しいものを創り出したい。
音楽の世界でそんな風に、がむしゃらにがんばってきて、
今さら、「自分のあたり前が、実は一番価値がある」
と言われても・・・
腑に落ちるまで、本当に長い時間を要しました。
こんなこともありました。
とある会でスピーカーとしての登壇を依頼された時のこと。
主宰の方が、
「MISUMIさんのルーティーンをご紹介したい」というのです、
しかもスライド付きで、資料まで配って、
私の「あたり前の生活」をみなさんとシェアすると。
ここでも「あたり前」にスポットがあたり、
いやーん、となりました。
高級ホテルで毎朝朝食をとるわけでも、
夕日の渚をジョギングするわけでもない。
ドラえもんもいない・・・
これ以上なく、平凡な自分の日常。
そんな話が、
一体全体参加者のどんなお役に立つというのか。
「なにをそんなあたり前のことを」と言われるのを覚悟で、
自分の毎日のルーティーンをお話して驚きました。
私の退屈な日常のひとつひとつに、
参加者が声をあげるのです。
へぇ〜。。。
おぉおお。。
自分の常識は他人の非常識とは、
まさにこういうことなのだと気づかされました。
たとえば、同じものを見ていても、
人はそれぞれ視点が違う。
誰かの歌を聴いて、
いい声だね、という人がいて、
ピッチ悪いね、という人がいて、
もうちょい痩せた方がいいでしょ?という人がいる。
歌詞が染みるね、という人がいて、
曲はいいけど、ギターが弱いね、などという人もいる。
同じ体験をしていても、
同じ経験にならないというのが人間。
まして、無限に存在する行動の中から、
特定のひとつを自分の感性で選び取り、
繰り替えし行うことで、少しずつ、
自分のスタイルにアレンジしていく。
それがやがて、自分という人間のスタイルの一部になる。
アイデンティティって、
身につけるものでも、
つくりあげるものでもなく、
ただ、そこにあることに気づくこと。
そして、その「あたり前」こそが、
何よりも、
自分自身を他の人と全く違う存在にしている、
感性の集大成なのだと、
しみじみ感じはじめた今日この頃。
だとしたら、自分の「あたり前」を極める。
これこそが、自分という命の本分なのかもしれません。
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