大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「あたり前」を極める

   

「自分があたり前にやっていることで、
他の人が絶対にマネできないことに注目しなさい。」

かつて、出版の師匠にそんなことを教わりました。

これが実に難しい。

なにしろ、自分という人間は、
自分にとってはうんざりするほど平凡で、
あたり前の毎日を、絶望的に繰り返すだけの、
取るに足らない存在。

自分がやっていることなんて、
誰だってあたり前にやっている、はず。

そんな自分という人間の日常に、
特殊性や特異性を見出すことは、
実に難しく感じました。

特別な人間になりたい。
新しいものを創り出したい。
音楽の世界でそんな風に、がむしゃらにがんばってきて、

今さら、「自分のあたり前が、実は一番価値がある」
と言われても・・・
腑に落ちるまで、本当に長い時間を要しました。

 

こんなこともありました。

とある会でスピーカーとしての登壇を依頼された時のこと。
主宰の方が、
「MISUMIさんのルーティーンをご紹介したい」というのです、
しかもスライド付きで、資料まで配って、
私の「あたり前の生活」をみなさんとシェアすると。

ここでも「あたり前」にスポットがあたり、
いやーん、となりました。

高級ホテルで毎朝朝食をとるわけでも、
夕日の渚をジョギングするわけでもない。
ドラえもんもいない・・・
これ以上なく、平凡な自分の日常。
そんな話が、
一体全体参加者のどんなお役に立つというのか。

「なにをそんなあたり前のことを」と言われるのを覚悟で、
自分の毎日のルーティーンをお話して驚きました。

私の退屈な日常のひとつひとつに、
参加者が声をあげるのです。

へぇ〜。。。
おぉおお。。

自分の常識は他人の非常識とは、
まさにこういうことなのだと気づかされました。

 

たとえば、同じものを見ていても、
人はそれぞれ視点が違う。

誰かの歌を聴いて、
いい声だね、という人がいて、
ピッチ悪いね、という人がいて、
もうちょい痩せた方がいいでしょ?という人がいる。

歌詞が染みるね、という人がいて、
曲はいいけど、ギターが弱いね、などという人もいる。

同じ体験をしていても、
同じ経験にならないというのが人間。

まして、無限に存在する行動の中から、
特定のひとつを自分の感性で選び取り、
繰り替えし行うことで、少しずつ、
自分のスタイルにアレンジしていく。
それがやがて、自分という人間のスタイルの一部になる。

アイデンティティって、
身につけるものでも、
つくりあげるものでもなく、
ただ、そこにあることに気づくこと。

そして、その「あたり前」こそが、
何よりも、
自分自身を他の人と全く違う存在にしている、
感性の集大成なのだと、
しみじみ感じはじめた今日この頃。

だとしたら、自分の「あたり前」を極める。
これこそが、自分という命の本分なのかもしれません。

◆6日間であたなの声と歌を劇的に変える【MTL ヴォイス&ヴォーカル レッスン12】第9期のお申込み受付中。
◆ワンランク上を目指すシンガーのためのスーパー・ワークショップ“MTLネクスト”

 - B面Blog, Life

  関連記事

ああ、テクノロジぃい

音楽家ってのは、(いや、ヴォイストレーナーってのもそうか。)ゴールデンウィークと …

コツコツ積み重ねる微差が、逆転勝ちを演出する

自分の生まれは選べません。 生まれたときから、才能やルックスや音楽環境に恵まれて …

言い切ったもんが勝つ。 そして、言い切れるやつは本気でカッコいい。

「自分を信じる力を才能という」 かのジョン・レノンの名言として、 とある雑誌で紹 …

思い込みと勘違いで他人に意見するのは一種の迷惑行為。

何年か前、知り合いの女性ヴォーカリストに、 「私、衣装は全部ネットで買っているわ …

前途洋々な若者に思わずアドバイスしてしまう5つのこと

時間は年齢とともに加速する。   噂には聞いていたけど、 そして、20 …

”想い”を形にする

ゆりかもめに揺られてお台場をながめるとき、 いつも、いつも、心によぎる思いがあり …

「思いきりOFF」で、効率をあげる。

「休みの日には思いきり休みなさい」と、みんなに言っています。 たまりにたまった雑 …

「モラハラ」に負けない思考法

「ブスが話しかけるんじゃね〜よ!」 さまざまなハラスメントの標的になっていた、か …

「雰囲気」とは身にまとうもの

「わかってないなぁ。 ああいうスキャンダラスな雰囲気、お前、出せるわけ?」 &n …

「あぁ、それ、年だよねー」

2024年、初ブログです。 本年もどうぞよろしくお願いします。 今日、10数年来 …