「声が低けりゃ威厳を感じるのか問題」を考える。
ヴォーカリストの悩みで一番多いのは、
「高い声が出ない」。
一方で、ビジネスパーソンの悩みの中で、
5本の指に入ると言っていいくらい、
よく相談を受けるのが「声が高い」です。
人は声の低い人に威厳や信頼感を感じる、と言われます。
いわゆる「モテ声男性」は低音なものですし、
人気俳優の多くは、よく響く心地よい低音で話します。
低い、落ち着いた声で話したいと思うのは、
男性ばかりではありません。
男性中心のビジネスの現場では、
女性の声の周波数は目立ちます。
さらに、高い声の女性は、
「感情的」「頼りない」と評価されることが多いため、
女性たちも、低い声で話したいと考える傾向にあるようです。
実際に声のトーンを変えただけで、
オーディエンスの態度が一変した、
社会的地位が上がったという、
アメリカの女性弁護士のレポートもあります。
しか〜し。
ここで間違えてはいけないのは、
聞く人が威厳や信頼感を感じるのは、
単に「音程が低い声」ではないということです。
そもそも、人はなぜ、
声の低い人に安心感を感じるのか。
声の低さは、体の大きさの象徴でもあります。
身長が高い人ほど、
長い声帯様を持っている場合が多い、
すなわち、低音が出やすいのです。
長くて立派な声帯様をきちんと鳴らすことができるのは、
呼吸力、体力がある証拠。
すなわち、よく響く低音は、
若さと強さの象徴でもあります。
低音に威厳を感じるのは、
動物としての本能なのですね。
さらに。
どんなに立派で健康、
若いカラダを持っていても、
緊張すれば声は高くなります。
大きな犬でも、
ケンカに負けそうになったときや、
弱気になっているときは、
キャインキャインと鳴きますね?
深みのある低音は、
精神的に安定している証拠でもあるわけです。
人間の場合、
心身の状態による声の音色の変化は、
さらに顕著です。
不安や緊張を感じれば、
声は神経質そうに、
キンキンと固くなります。
カラダの軸に力がなければ、
弱々しい声になりますし、
自分を大きく見せようと、
必死になれば、
声がひっくり返ったり、
枯れやすくなったりしてしまいます。
内向的な性格で、
自信が持てないタイプの人は、
構音器官に力が入りやすく、
声がこもります。
低くよく響く声というのは、
身体的にも、精神的にも充実した、
自信あふれる人の象徴なのです。
まずは、心身の充実した状態を演出すること。
いきなり音程を下げることよりも、
口の内外の筋肉の緊張を解くことが先決です。
ノドまわりのいらない緊張をゆるめて、
カラダの軸の力の流れを意識しながら、
ゆったりと声を出しましょう。
たとえばあくびをするとき、
お風呂でため息をつくとき、
いつもよりも低い声が出る気がするのは、
リラックス効果なんです。
リラックスして、
軸に力を感じながら、声を出せるようになったら、
少しだけ音程を下げて話してみてください。
ただし、あからさまな低音にするのは、
ただのコントです。
下げるのは「半音」。
カラオケで言うところの−1で十分です。
そのくらいが、無理なく、自然に話せる範囲です。
マーガレット・サッチャーが政治家として選挙に立つときに、
ヴォイストレーニングを受けて声を低くしたという話は有名ですが、
彼女が下げたのも、わずか半音程度。
それでも、「低音の強い声」を演じ続けたために、
声を痛めたとも言われています。
なにごとも、過ぎたるは及ばざるがごとし。
自然な、深みのある声を目指すのが一番ですよ。
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