大陸横断鉄道の「個室寝台」
2022/12/24
生まれてはじめて、
海外をひとりで旅したときのこと。
カナダの大陸横断鉄道、
VIAトレインに乗りました。
バンクーバーから、
鉄道とバスを乗り継いで、
ロッキー山脈周辺を旅し、
飛行機でトロントの知人の家を訪ね、
そこから、ニューヨークに向かうという、
初めてのひとり旅のくせに、
壮大な旅行計画でありました。
大陸横断鉄道!
島国ニッポンの、しかも、東京生まれ、東京育ち。
四角く切り取られた空ばかり見上げて生きてきた私が、
胸焦がれたのは、「地平線」でした。
カナダを旅しようと決めたときから、
頭の中を無限リピートしていたのは、
サイモン&ガーファンクルの”America”という曲の一節。
And the moon rose over an open field.
(そして、平野に、月が上った)
この、光景が見たかったんですね。
もう、そりゃあ、一目でいいから、見たかった。
それが「大陸横断鉄道」の電車の中からだったら、
最高じゃない?って思ったわけです。
ちなみに、
“America”の歌詞の中では、
主人公たちはGrey Hound(グレイハウンド)という、
アメリカの長距離バスに乗って旅をしているわけなのですが、
さすがの私も、
バスでアメリカを横断する度胸はありませんでした。
そのくらい、当時のアメリカとカナダは、
(おそらく今も)
治安が全然違いました。
興味がある人は、
マイケル・ムーア監督の、
『ボーリング・フォー・コロンバイン』
という映画を見てもらうと、
雰囲気がつかめるかも知れません。
とにもかくにも、
バンクーバーに降り立った私は、
翌日、その美しき港町を後にして、
VIAトレインの個室寝台に乗り込んだのです。
個室寝台。
素敵じゃありませんか?
私の頭の中には、
かの「オリエント急行」の映像しか思い浮かびませんでした。
インターネットがないときの方が、
旅には夢とロマンがありましたねー。
予備情報は、
なんでも8割増しで書いてあるガイドブックだけでしたから。
カラフルな列車にワクワクと乗り込んで、
部屋に入って、その超コンパクトかつ、
合理的な作りにひっくり返りそうになりました。
えーと、ですね。
個室寝台は、文字通り、
「個室のベッド」でした。
ドアをがらっと開けると、
そこにはコンパクトなソファがあるだけです。
洗面台は壁にはめ込まれていて、
使う時に引き出す形です。
トイレは上に蓋がついていて荷物置き場風。
その反対側の壁にベッドが格納されていて、
さぁ、寝ましょ、とベッドを倒すと、
部屋ぜんぶがベッドになるしくみです。
つまり、夜中にトイレに行きたいわと思ったら、
一旦外に出て、
ベッドを起こして、
トイレを出して、使ったらまた戻して、
洗面台を引き出して、使ったらまた戻して、
また外に出て、
ベッドを倒さなくちゃいかんのです。
便利なのか、不便なのか、
どっちなんだって言ったら、
はっきり言って、ものすごく不便です。
とにもかくにも、
そんなベッドの上で、
部屋を真っ暗にして、
一晩中、空を見上げておりました。
ぱーっと平野がひらけたときに、
ちょっとだけ欠けた月が、
ぽかんと浮かんで見えて、
ウォークマンで、
“America”を何回も何回も聞きながら、
泣いたなぁ。
まぁ・・・たったひとりで旅に出ようと決心するまでには、
いろんなことがありまして。
こんなところで、
ひとりぼっちで、
何をやっているんだろうと、無性に淋しくて、
そのくせ、
やっとここに来たんだっていう、
果てしない、
希望のような、不安のような、
ざわざわするような気持ちがあって。
サビの最後に、延々と繰り返される、
“All come to look for America”
(みんなアメリカを探しに来るんだ)
を、ウォークマンの電池がなくなってからも、
ずっとずっと口ずさんでいました。
私の長い旅は、そんな風にはじまりました。
続きは、また、ふと思い立ったときに。
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