「所詮同じ人間」という前提に立つ。
誰かにできて、自分にできないことを、
生まれや育ちの違いのせいにしてしまうのは、
私の思考のクセです。
人生は不公平。
死ななきゃ変われないんだ。
どうせあたしなんか。。。。
こうした思考のクセは、
自分がなにかできないことの言い訳にはなっても、
なるほどと腑に落ちて、気持ちを解放してくれるような、
ポジティブな答えにはなりません。
こんなときは、
気持ちがネガティブな方向に流れるのにブレーキをかけず、
やさぐれるだけやさぐれるのが私流。
ネガティブが一周すると、
ふとプラスの思考に向かうひらめきが芽生えるからです。
じゃあ、そんな恵まれた人たちと私は、何が違うんだ?
黒人の歌にあこがれて、
でも、絶対に自分はあんな風に歌えないと、
日々落ち込んだり悩んだりしていた頃もそうでした。
所詮、同じ人間でしょ?
鼻の穴は2つ。
腕は2本。
カラダのつくりはみな一緒。
・・・本気で、こんなことを考えていました。
黒人に歌えて、私に歌えない理由は、
じゃ、なんなの?
遺伝子ってなに?
黒人の遺伝子持っている人は、
誰だって歌がうまいっての?
っていうか、なんで黒人の歌が最高って思うの?
「それは、一握りの、特別な人だけができること」。
プロになりたい、
歌手になりたいというたびに、
そんな風に、おとなたちに言い聞かされ、
もっと安全な生き方があるじゃん、
あきらめなくちゃ、無理なんだと、
自分を納得させようとしている自分もいます。
しかし、一方で、
「違う人間」と考えることは単なる逃げなんじゃないか、
目に見えないゴールに向かって、
果てしない研究や努力を強いられる時間を、
回避しようとしているだけなのではないか、とも思えました。
そうなると、自分には無理だと納得させる方法は、ただひとつです。
徹底的に研究してみる。
徹底的にやってみる。
それでできなかったら、
あぁ、やっぱり、「所詮同じ人間」説は、
浅はかな思い込みだったのねと、納得できるに違いない。
その代わり、やるなら絶対に妥協せず、
徹底的にやろう、と心に誓いました。
自分に言い訳して生きるのはもうおしまい。
もっとがんばっていればできたかも、
という余地は残したくなかったのです。
とはいえ、何からはじめたらいいのか、
さっぱりわかりません。
とにかく歌う。
これしか思いつきませんでした。
父が買ってきてくれたダイアナ・ロスのレコードにあわせて歌う。
これが、私がハマリにハマった完コピの原点です。
最初はメロディを覚えるのと、
テンポに遅れないように歌詞を歌うので精一杯でした。
速いテンポの16ビートに乗せて、
小気味よくことばを刻んでいく。
あぁ、英語ってカッコいいよなと、
しみじみ思ったものです。
なんといっても、音の要素が多い。
ちゃんとは聞こえてこなくても、
うっすら発音されている音が、たくさんあります。
たとえば、
ア シ バ ザ テレ フォ ウェ リン フォ
と歌うのがやっとの16ビートの刻みの裏に、
I sit by the telephone waiting for
という細か〜い母音や子音の要素がいっぱい入っている。
そんな細かい音が歌に音楽的な深みにを与えていました。
辞書を片手に歌詞カードの上に発音記号を並べます。
いやー、しつこい。
I も sit も by も、ぜ〜んぶ調べました。
だって、電子辞書はありません。
もちろんインターネットで、
ネイティブが発音している音を聞けるわけでもありません。
ちなみに言うと、
レコードかカセットテープしか再生手段がなくって、
再生スピードさえ変えられません。
「あの頃は大変だったんじゃ自慢」は年寄りの証拠ですが、
不便と貧乏を変えたいというエネルギーが人間を動かすのは、
いつの時代も変わらないのでしょう。
発音記号を見ながら、ゆっくり練習した英語を、
歌に乗せてみる。
すると、それまで平たく聞こえていた自分の歌が、
少しだけ立体的になりました。
しかし、小気味よくビートを刻む感じになりません。
タ タタタタタタタタタ という16ビートに
I sit by the tel-e-phone wait-ing for を
パキパキっと、ドラムがビートを刻むように乗せたいのに、
母音がパキッと発音できない。
パキッと発音すると、声がかたくなる。。。
語っていると止まらなくなります。
マジでしつこい(^^)
この曲はダイアナ・ロスのベスト盤の1曲目に入っていた曲ですが、
こんな調子でアルバム1枚を完コピしました。
ダイアナ・ロスの7色に変わる不思議な声の音色を真似て、
いろんな発声を試しました。
表情が見えるような表現力に魅了されました。
軽いディトーションがポンとかかるポイントがカッコよくて、
チカラの入れ具合を研究しました。
最初は都はるみさんのコブシみたいになっていたんですが、
やがて、ちょっとずつ仮声帯の鳴らし方がわかるようになりました。
声の強さが1フレーズの中で微妙に変化する感じを、
何度も真似しました。
やればやるほど楽しくて、奥が深くて、
少しずつだけど、歌えるようになっていく自分がいる。
こんなオタッキーなミクロなことを毎日毎日、
何時間もやっていると、
だんだん、いろいろな人の歌を聴いた瞬間に、
さまざまな情報が自分に流れ込んでくるようになります。
カッコいい、悪い、という判断も、できるようにもなりました。
単に、「黒人の歌って、すごい」が、
「ダイアナ・ロスの歌は、声のここが、リズムのこんなところが、メロディのこんなとらえ方がすごい」とひとつひとつわかるようになっていきました。
こんな完コピを、300曲やりました。
どんなことも、
単に「すごい」と思っているうちは絶対に距離は縮まりません。
なぜ、どんなところが、どんな風に、と、
自分で自分を納得させられるまでやってみる。
300曲完コピして、
やっと自分の歌に出会えた私は、
まぁ鈍才中の鈍才なわけですが、
その頃築き上げた財産は、
今もMTLの日々のレッスンの中に生きています。
あきらめられなくてよかった。
オタクでよかった。
だから、まだまだ、語り続けます。
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