大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

穴を埋めるのか。山を高くしていくのか。

   

スタジオのお仕事が軌道に乗り始めた頃のこと。
私の歌を気に入ったから、プレゼン用のデモ制作しようと、
さまざまなシーンで業界関係者から、お声がけいただました。

実際にできあがったデモを持って、事務所やレコード会社を回ったこともあります。

しかしね。まったくうまくいかない。
ルッキズム、セクハラ、モラハラ、なんでもこいの時代です。
当時の私ががっかりするくらい地味だったからという事実は100%受け入れるとして、
(堂々とそう口にするヤツらもいましたが)
実際に異口同音で言われたことは、
「英語歌っているとめちゃくちゃカッコいいのに、日本語歌うと急に普通になっちゃうよね」
でした。

バンドブーム以前のこと。
日本でやりたいなら日本語で歌うべし、という時代です。
そこから話が前に進むことはありませんでした。

日本人なのに、日本語が苦手なの…?

自分なりのくふうもしました。
英語の歌い方に寄せるように歌ってみたり。
声の音色をくふうしてみたり。

しかし、評価は変わりません。
「普通にうまい」です。
そんなつまらない言われようもありません。
途方に暮れました。

どうがんばっていいのか、わからなくなって、学生時代、しばしお世話になっていた、ヴォイストレーナーの安田直弘先生の門を叩きました。
私が歌の恩師と言い切れる唯一の先生です。

「先生、私、日本語歌うと、普通だって言われるんです。
全然評価してもらえないんです。
でも、どうやって歌ったらいいのか、わからないんです。」

すると先生は、当たり前でしょ、というように、穏やかに言うのです。
「そりゃ、普段、日本語で歌ってないからだよ。
どう?コサカさん(私の旧姓)のレパートリーに日本語の曲、何割あるの?
1割?1割もないでしょ?
歌ってないんだから、歌えないのは当たり前だよ」

そう言われて、はじめて、あ、そうかと、当たり前すぎる事実に気づき、愕然としました。
歌ってないどころか、音楽というものに目覚めた中学時代から、積極的に聞いた日本のアーティストは5本の指で数えてもあまるほどしかいません。
対して夢中で聞いた洋楽アーティストは無数。
その時点で、すでに200曲以上は完コピしていました。

絶対サンプル数が足りないんですね。限りなくゼロ%に近い。
基準がないのだから、どう歌ったらいいのかわからないのは当たり前です。

逆に言えば、英語の歌を歌うと評価されたのは、誰よりも洋楽を歌いまくっていたからだったわけです。

すとんと腑に落ちました。
と同時に、気持ちがすーっと楽になりました。

できないこと、好きじゃないことをがんばっても、
それは、自分の能力の穴埋め作業みたいなもので、
結局「普通」、アベレージを越えることはできない。

好きだからこそ、細部が見える。
好きだからこそ、上達する。

人より得意なこと、大好きなことを極めること、
つまり自らの能力の「丘」に土を積み上げて「山」にする。
その山を高く高くしていくことでしか、人と違う場所にいくことはできない。

人生のターニングポイントとなった、大きな気づきです。

あなたの好きなこと、得意なことはなんですか?

■パメルマガ『声出していこうっ!』。ブログから、さらに1歩進んだお話をしています。ご登録いただいた方全員に、『朝から気持ちい声を出すためのモーニングルーティン10』をプレゼント。ご購読はこちらから。

■FBの著者ページにて、歌が大好きなあなたのためのスペシャルコンテンツを毎日アップしています。FBに登録していない方もごらんいただけます。いいね!&フォローを、ぜひ。

 - My History, プロへの突破口, 夢を叶える

  関連記事

わかってないのは、そいつの方じゃないのか?

「自分のこと、めっちゃ美人だと勘違いしてる、ぶっさいくな女っているよね? &nb …

上達するためのプロセス

高い声を出したい。 もっと正確にピッチやリズムを刻みたい。 速いフレーズを的確に …

絶望的に長い年月、積み重ねる「少しずつ」

こどもの頃好きだった忍者漫画で、 忍者の家に生まれたこどもは、ごく小さな頃から、 …

頭を2針縫いましてん。

3日ほど前の夜中のことです。 打ち合わせと称する飲み会からの帰り道、 ジェフ夫さ …

胸の痛みを抱きしめて進め

やっとの思いでミュージシャンの端くれになって、 少しでも一流といわれる人たちに近 …

てやんでえ、ばかやろう!

「そんな年からピアノはじめて、モノになるわけないでしょ?」 「あなたは耳が悪いか …

大きな波を引き寄せる

音楽の仕事には、大きな波のようなものがあって、 来るときには、ど〜〜っと来て、 …

「準備OK」な自分を育てる

欲しいものがなんだかわからなければ、 どこに向かって手を伸ばせばいいのか、わかり …

あぁ、あこがれの「ビッチ感」

人にこう見られたい、というイメージと、 実際の自分自身が人に与えるイメージに開き …

自分自身を「スポットライトのど真ん中」に連れて行く。

スポットライトって、すごいなぁと、 ヴォイトレに来るアーティストたちの、 コンサ …