「東京って、やっぱりすごいんですか?」
週1回ほど京都の音楽学校で教えていた頃。
よく顔を見るギター科の学生と
エレベーターで一緒になりました。
照れくさそうに挨拶をしてきた彼は、
私にこんな風に質問してきました。
「東京って、やっぱりすごいんですか?」
エレベーターで3階まであがる、ほんのつかの間の出来事です。
私はやや面食らいながら、
「いや。東京がすごいってわけじゃないよ。
とにかく東京に来てみたらいいんじゃない?」と、
答えたと記憶しています。
東京という街は私の生まれ故郷です。
平凡で退屈で平均化された街。
それがティーンエイジャーの頃の私の印象でした。
刺激的な人、才能溢れる人は、
きっとこの街には、日本なんかには、いないんだ。
そう思えて、一日も早く東京を脱出したいと考えていました。
しかしね。
井の中の蛙、大海を知らずと言います。
私は東京という街に生まれたけど、
東京という街に関わったことがなかった。
親戚や家族や友だちという、
自分自身が置かれた限られた場所からしか、
東京という場所を見ていなかったのですね。
実際に社会に出て、
音楽業界や広告業界でもまれながら、
文字通り東京のさまざまな面を垣間見、
ありとあらゆる種類の人と出会い、
素晴らしいことや、
死んだ方がましと思えるようなことをたくさん経験しました。
海外に2年ほど住んで、
外側から日本を、東京を、客観的に見て、
東京の持つエネルギーや懐の深さ、
その世界まれに見る独特な文化と出会い、
日本と東京に対する深い愛着が芽生えました。
「すごい人」のいる比率は日本全国どこでも同じです。
人口が集中している東京に「すごい人」がたくさんいる、
というのは、そういうこと。
もちろん「しょうもない人」のいる確率も日本全国同じなんで、
東京には「しょうもない人」も、日本全国どこよりもたくさんいます。
それが都市というものです。
チャンスに出会う確率も、きっとどこにいても変わらない。
ただ出会いと別れのサイクルがまわるスピードが圧倒的に速いから、
東京にいると「チャンス」と出会いやすいと感じます。
東京にいても、なんにもしない、
誰にも会わないで暮らしていれば、なんにも起きません。
それが人生というものです。
東京がすごいんじゃない。
そこに集まる人のエネルギーとスピードが、
東京をつくっているんですね。
東京のように一都市だけに人や物、お金が集中する状態は、
これからどんどん変わっていくでしょう。
ネットによって社会の構造自体が変化して、
どこに住んで、どこで働いていても、
ストレスなく仕事ができるようにもなるでしょう。
それでも、です。
飛び込んでみないと、
関わってみないとわからないことって、たくさんある。
人の、街の、本当の力は、奥深くまで入り込んでいかないと、
絶対にわからない。
飛び出したいと思ったら、とりあえず飛び出す。
飛び込みたいと思ったら、まずは飛び込む。
それはもの凄く勇気も覚悟もいることだけど、
遠くから眺めて、
「所詮こんなもん」
「たいしたことないや」
「自分には向かない」
などと、批評家めいたことを言っているだけでは、
心の底にあるモヤモヤは一生晴れないでしょう。
自分の「コンフォタブルゾーン」から出ることなしには、
次のステージにはいかれません。
今、彼にもう一度出会ったらこう伝えたい。
「東京って、すごいんですか?」
の答えは自分でみつけよう。
飛び込んで、関わって、
すんごい好きになるか、
あぁ、こんなもんね、って納得するか、
うっひゃあ〜、最悪や、って思っちゃうか。
その答えがみつかったら、
きっと大きく前進できるはず。
まずは、飛び込め。
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