「夢喰って生きられないぞ」
大学3年だったか、それとも4年生だったか。
アルバイトをしていた東京タワーのおみやげ物やさんの店先で、
来る日も、来る日も、
これからどうしよう、
これからどうなるんだろう、
と悩んでいた頃の、心の重さとつらさは、
今でも、胸の鈍い痛みとなって、瞬時に蘇ります。
Jpopが大の苦手で、邦楽にまったく興味が持てない。
テレビに出たいわけじゃない。
有名人や芸能人になりたいのでもない。
漠然と、
「セッションミュージシャン」とか
「スタジオミュージシャン」、
「一流ミュージシャン」ということばにあこがれて、
でも、それがどんなものかもわからない。
人と違った道を夢見るとき、
周囲からのネガティブなコメントには事欠きません。
「夢喰って生きられないぞ」
「芸能界だもん。やっぱりそれなりのルックスがないと無理でしょ?」
「プロになるなんて、毎日カラオケつくる仕事するようなヤツのことだぜ」
「そんな程度の歌で、プロなんか無理でしょ?」
頭では全部わかっていることが、どうしても心では納得できない。
そして、心が納得できないことに、
限られた人生の、限られた時間や若さを注ぐ勇気はなかったのです。
来るかどうかわからない明日のために、
今日という日の夢を押さえ込んで、
安全や平和や安定という、
「プロミュージシャン」という言葉と同じくらい漠然としたものを買うのに、
一体なにを差し出せというのか?
自分の才能に自信のあるミュージシャンや、
すでに、あちこちから引きのあるアーティストなら、
けしてそんな迷いは持たなかったでしょう。
しかし、私が持っていたのは、若さと希望。
そして、持てあますほどの情熱だけでした。
そんなある日、ふと手に入れた音楽雑誌を飾っていた、
有名プレイヤーたちの写真を見るうちに、強い決意が目覚めました。
この人たちと、いつか、一緒に歌おう。
この人たちに、いつか、「キミの歌、いいね」といわれる人になろう。
どうやってそこに行くのかはわからない。
本当にやれるのかどうかもわからない。
ただ、それが私の決意でした。
心を決めた瞬間。
自分の心を支配していた重さが、少しだけ軽くなった気がしたものです。
それから10年。20年。
いや、もっともっと長い時間が経ちました。
当時あこがれていた、
あの雑誌を飾っていたミュージシャン、すべてと、
さまざまな形で共演することができました。
お褒めのことばもいただきました。
「何十年もやってりゃあ、そりゃ、そんなこともあるさ。」
「ついてたんだね。」
「そんなこと書いてるけど、実は元々、結構イケてたんじゃないの?」
なんとでも言ってください。
どれもきっと、正しいでしょう。
闇雲に、夢を追いかけろなんて、無責任なことを言うつもりはありません。
私に言えることは、
「心の声に従え。」
「決意したら、何があってもひるむな」
そして、
「戦場では最後に立っていた者が勝つのだ」。
今も、この言葉を座右の銘にして、日々戦っています。
まだまだ、これからです。
関連記事
-
-
オレの方がすごい?「優越感シンドローム」
ある程度キャリアのあるプロフェッショナルなら、 誰しも、自分自身の仕事や能力にプ …
-
-
オーディションで、勝ち残る
アーティストやその卵たちのレッスンでは、折に触れ、ここ一番の緊張感に包まれる時期 …
-
-
ほんっとに「一期一会」
一期一会。 若かりし頃はあまりピンとこないことばでしたが、 年を重ね、世界を巡り …
-
-
ロックへの反逆
「お前なんかロックじゃねぇよ。オレは認めね〜ぜ。」 少し前のこと。 ロック的なサ …
-
-
めげない心を持つ人を、 「才能がある」というのだ。
「やりたい!」と思いがほとばしることは、必ずできる。 自分にはそれを可能にするだ …
-
-
「なんで電話番号わかったんですか?」
今日、来客中に電話が鳴り、 リビングにいたジェフ夫さんが対応してくれたようなので …
-
-
「知ってる」だけで満足しないっ!
好奇心は学習のはじまりです。 「知りたい」という欲求こそが、 人を、勉強や練習や …
-
-
どうせやるなら「ザ」のつくプロフェッショナルを目差せ!
先日、とある販売店でのこと。 まだまだ新米臭のある若者が、私たちの担当になりまし …
-
-
人間の記憶は消えない?
「人間の記憶は消えない」という話を 何かの本で読んだことがあります。 実は、脳は …
-
-
「変化」を恐れずに生きる
10代の頃は、10代のうちに死にたいと思っていました。 10代が一番美しい。 穢 …
- PREV
- 「ハモらない」時の覚え書き
- NEXT
- こんなに欠点はあるけど、自分はそれほど無能なわけじゃない。