大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「誰に学ぶか?」vs.「誰が学ぶか?」

      2024/06/30

中学1年でやっとの思いでピアノを買ってもらって、通い始めた近所のピアノ教室。
2年ほどで物足りなくなって、ポピュラーピアノを教えてくれる横浜の教室に移ったのは中学3年の時のことでした。
母の友人が経営していたエレクトーン中心のお教室で、若い先生にコードを習ったり、映画音楽やポップスのレッスンをつけてもらったりしていました。

高校1年の夏、いきなりロックに目覚め、翌週、「ギターリストになるから、ピアノをやめたい」と宣言した私に、母の友人である恩師はこう言いました。
「MISUMIちゃん、別に一所懸命やらなくてもいい。ギターやったっていい。
だけど、ピアノは続けなさい。
続けててよかったって思うから、絶対やめない方がいいよ。」

妙に説得力のある先生のひと言に、踏みとどまり、結局ピアノを細々と続けることになりました。

案の定、その3年後には、自らのギターの才能に見切りをつけ、「キーボーディストになろう!」と決意。デイブ・ブルーベックや、グルーシンやチック・コリアや、そうそう、高中正義の曲なんかも、なんちゃってで練習し…。
発表会では、自分で簡単にアレンジした、”Spain”だの”Captain Caribe”だのを弾きました。
いや、「弾いている気になってた」が正しいんだけど。

さらに、その3年後には、「やっぱりクラシックだ!」となって、再度クラシックに挑戦。
その年の発表会で弾いた”ハンガリア舞曲”は、これ以上ないくらいにひどかった…。
翌年の発表会で、華麗に弾くはずだったラベルの曲のメロディが全く思いだせなくなって大恥をかいたのを最後に、人前でピアノを弾くことをすっぱり辞めました。

自分自身がブレブレだったことを棚に上げて、実はこの間何度も、先生を変わった方がいいのでは?と悩みました。

そう。中3でピアノ教室を変わって以降、ず〜っと同じ先生についていたんです。
正直、物足りなさは感じていました。
一方で、自分が弾けないだけなのに、先生を変えるなんて、ただの逃げだという気もしました。
ホントにうまい人は習わなくてもうまい。
だから、先生を変えるより先に、もっと練習しなくちゃ…と。

しかしです。

もしも、「キーボーディストになろう!」と決意したあの日、プロのピアニストやキーボーディストについて、ジャズやポップスのアプローチを学んでたらどうたったろう?
本格的なプレイヤーの中に入って、たたき込まれてたらどうだったろう?

きっと、「譜面通りに弾きなさい」「譜面がない曲は弾けないから探していらっしゃい」「あらあら、アレンジしたの?すごいわね〜」なんて世界観とは全然別の、プロのプレイヤーならではの視点と、感覚を学べたに違いない。
もしかしたら、今でもピアノを弾いていたかもしれない。
いやいや、もしかしたら、もっと早い段階で、箸にも棒にもかからない自分のセンスに気づいて、さっさと次に進んでいたかも。
…そんなことを、一流のプレイヤーたちの演奏や考え方に触れるほどに思うのです。

あの頃の私には、もちろん、そんな選択肢はなかったし、そんな発想すら湧かなかったわけで。
起きることはすべて正しい。
すなわち、起きなかったことは、ただ、起きなかったことなのだ。

別の宇宙の私は、今ごろどっかで華麗にピアノを弾いているのかしらん?


 

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