「曲の可能性」をありったけ取り出す
大好きで、よく引用することばに、
世紀の名ピアニスト・ホロヴィッツの
「楽譜は紙ではなく、箱のようなもので、
そこから何を取り出すかはあなた次第です。」
というのがあります。
こちらでも、何度か紹介してきたので、
聞き覚えのある方も多いと思います。
このことばは実に奥の深いことばです。
音楽から取り出すものは自由。
だから、自由な発想で音楽と向き合いなさい。
そんなメッセージであるとともに、
音楽の可能性をどこまで引き出せるかは、
演奏する人の能力やセンスにかかっている、
というメッセージでもあります。
昨日、ギターリストの末原康志さんと共に担当している、
音大のアンサンブルの授業で、
イーグルスの“Please Come Home For Christmas”という曲を、
テンポ20ほど落として演奏してみよう、という課題を出しました。
たくさんのアーティストにもカバーされている曲なので、
ご存じの方も多いと思いますが、
この曲は3連のブルージーな曲。
その割には、遅すぎない、ポップなテンポで演奏されています。
それを、ちょっとこってこてな、
ブルーズって感じでやりましょう!という試み。
普通なら、テンポを落とすくらい、
どうということはないと思うでしょうが、
それは、せいぜいテンポ10くらいまでの話。
20も落とすと、最早別物の曲です。
それで、学生たちはどうなったかというと、
ただレコードの回転落としたように、
演奏自体がビョイ〜ンと間延びしちゃうんです。
ちょっと専門的に言うなら、
本来、テンポを落としたことで生まれる音のすき間を
どうやって楽しむか、
と言うのがこの場合のポイント。
しかし、この「すき間」という発想が、
慣れないとなかなか難しい。
すき間が空いちゃうのが怖くって、
思わず、音を伸ばしちゃう訳です。
普通に歌うと、(わかりやすくするために、ひらがな表記)
♫べるず うぃるびー りんぎ〜んぐ
なのが、
♫べーるずうぃーーるびーーーりーーーんぎーーーんぐー
となって、はなはだ微笑ましい。
楽器科の学生たちも、
いきなり生まれた「すき間」に次ぐ「すき間」に、
えーと・・・どうしたらいいんでしたっけ・・・
と、困惑顔です。
実際は、この「すき間」こそが「ビジネスチャンス」(^^)
この手の音楽を得意とするプロフェッショナルたちなら、
むしろこの「すき間」の奪い合いになるくらいの、
いわば、めっちゃ美味しいゾーン。
オブリやフィルを入れたり、
相手の演奏に反応して合いの手を入れてみたり、
新しいフレーズを差し挟んでみたり、
ヴォーカリストなら、
フェイクし倒したり、
いきなり新しい歌詞やメロを挿入してみたり、
お客さんに話しかけたり、
バンドを煽ったりと、やりたい放題。
または、あえて、
すき間をすき間のままにして、
お客さんの想像力で埋めてもらう、
みたいな渋い方法もあったりします。
いかに柔軟な発想を持って曲と向かい合えるか。
頭の中で、曲のイメージを膨らましたり、
広げたりできるかどうか。
実際にそのイメージを的確に音にできる、
スキルがあるかどうか。
極わずかですが、学生の中にも、
すでにこの辺のセンスを身につけている子がいて、
「うーむ。できる。」とうならされました。
おとなもうかうかしてはいられません。
インプット。
精度の高い練習。
そして、実地訓練。パフォーマンス。
この繰り返ししかありません。
音楽という箱から、ありったけの可能性を取り出すために。
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