大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

歌の魅力。〜SInger’s Tips#7〜

      2021/04/22

「今の声の初々しい魅力はそのままに、
もっと声が抜けるように、パワーをつけてください。」

「ギリギリで歌っている強烈な感じは損なわないように、
ノドに負担をかけず、ピッチよく歌えるようにしてください」

ディレクターさんたちから日々いただく、
難題ともいえるリクエストのおかげで、
トレーナーとして、ずいぶん鍛えられてきました。

歌の魅力って、必ずしも、
「うまい」ことでも、
「ピッチがいい」ことでも、
もちろん「発声がいい」ことでもありません。

のびのびといい声で、
そつなくて、
ピッチもリズムも正確な
死ぬほど退屈な歌を歌うくらいなら、

多少、ピッチがよれていようが、
声がガサガサだろうが、
蚊の鳴くような声だろうが、
ぐっとくる、魅力的な歌の方が、
何百倍も価値がある。

それなら、ボイトレなんかいらないじゃない!?
となりそうなものですが、そんなことはありません。

どんなに魅力的な声の持ち主だって、
プロとして最低限の仕事は要求されます。

マイク乗りが悪くて、
エンジニアさんたちを悩ませ、
楽器の音にかき消され、
あげく、あっという間に枯れてしまう。

ピッチが全然あたらなくて、
メロディが不明で、
あげく、1本ライブをやるたびに、
声帯炎を起こす、

年を取って、昔のような声が出せず、
キーも届かなくて、
やがて声質まで変わってしまう、

などの問題は、回避しなくてはいけませんし、
また、問題が起きたときに、
それをリセットする必要は、少なからず出てきます。

ヴォイトレは、
ゼロからビルドアップするための基礎工事ではなく、
感性のままに自由に歌い続けるための、
基礎補強工事のようなもの。

もちろん「地盤レベル」で、
カラダや声の本質にアクセスしていくことは必要不可欠ですが、
なにより、自分の歌の魅力を探求し続けることこそが、
シンガーとして最重要課題。

このへん、見失わないようにしたいものです。

◆一生に一度、集中的に学ぶだけで、”自分で自分に教えること”を可能にするMTL 12。毎週日曜日10時〜Youtubeにて公開中。
毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, Singer's Tips, The プロフェッショナル, 歌を極める

  関連記事

1度きり、しかも1曲だけしかチャンスをもらえないとしたら?

「ちょっと歌ってみて」   長年自分の歌を認めて欲しいと思っていた人に …

げに不安定な音を奏でる、完全なる楽器?

歌に真剣に取り組むほどに、 人間のカラダという楽器の奏でる音の不安定さに、 気が …

「音楽はひとりではできない」の本当の意味

サポート・コーラスのお仕事で日本全国をツアーしていた頃。 ツアー先の地方の会館に …

プロフィールって、どうしてます?

先日、作家の中谷彰宏さんのプロフィールを見ていたら、 なぜかご著書のことがどこに …

進化し続けられなければ、退化するか、腐敗するかしかない。

「『すべてを伝えます』って言うから、講座を受けたのに、その数年後にアドバンストが …

生(リアル)な音、ください。

溝が浅くなるまで、繰り返し聞いたレコード。 ぼろっぼろになるまで、使い込んだ歌詞 …

「この曲嫌い!」をどうするか?

一念発起して通いはじめた歌の学校で、最初に手渡されたのは、いわゆるAORというジ …

「フィルター」をぶっ壊せ

ティーンエイジャーの頃、 とにかくテレビに出ている「タレント」や「アイドル」 そ …

「プロの理想」を押しつけちゃいかんのだ。

その昔、一緒に曲をつくるためよく入り浸っていた友人のギターリスト・K氏の家には、 …

聞いてもらう。

「とりあえずデモをつくれ!」というのが、 昨日のメッセージでした。 行動しないこ …